大企業トップ、米政府に連名で要求を突きつける

三国大洋

2012-03-27 09:00

 さて。

 前回の「アップル株配当の原資が『国内の余剰資金』である理由」で、「Repatriation Tax Holidayは、2004年に一度実施されたことがある」と書いた。

 「American Job Creation Act of 2004」(「米国雇用創出法」)という名の法律の一部として実施されたこの施策が、その名称とは裏腹に、「実際にはほとんど雇用創出に役立たず、かえって納税者の負担を増やした可能性もある」という指摘が、米財務省をはじめとする主に反対派の間などから出ていることについては、施策の内容も含めて別途スペースを設けて紹介するとして、ここでは先に(アップル以外の)「ほかの多くの企業」について触れておく。(註1)

 アドビ、アップル、オートデスク、ブロードコム、シスコ、EMC、グーグル、マイクロソフト、オラクル、クアルコム……ZDNet Japanの読者諸氏にはどれも馴染みのある企業だと思うが、これは「Working to Invest Now in America」(WIN America)というロビー団体のウェブサイトにある「支援企業リスト」に並んだ名前の一部である。

Working to Invest Now in Americaのウェブサイト Working to Invest Now in Americaのウェブサイト
※クリックで拡大画像を表示

 これら米国を代表する大手多国籍企業のほか、このリストのなかには医薬品業界やエネルギー(電力)業界大手の名前も並んでいる。またテクノロジー系業界団体のBusiness Software Alliance(BSA)やTechNet、それにU.S. Chamber of Commerce(米国商工会議所)などの名前もある。

 また、現在同団体のウェブサイトにアクセスすると、オバマ大統領ならびに上下両院それぞれのリーダーにあてた公開書簡が目に飛び込んで来るが、こちらの起草者リストに並んだ署名も、スティーブ・バルマー(マイクロソフトCEO)、サフラ・カッツ(オラクルCFO)、ポール・ジェイコブ(クアルコムCEO)、ジョン・チェンバース(シスコCEO)などなど、実に豪華な顔ぶれである。

 そうして、この公開書簡の右脇には、次のような抜き書きがある。

「米国の企業に対し、国内への投資を促すインセンティブを提供することは、極めて常識にかなった解決策であり、これによって直ちに1兆ドルもの資金が米国経済に注入され、(失業した)米国人を雇用するために企業側で必要となる保障と確実性が企業各社にもたらされる。いまこそ、行動を起こす時である。資金を国外で使う代わりに、米国内に投資しよう」(註2)

 さらに、書簡本文のなかには次のような記述もみられる。

「みなさんもご存じの通り、米国の税制にはとても大きなディスインセンティブ(disincentives)が複数存在している。そのせいで、米国の企業は国外で儲けた利益を国内に持ち込むことができないでいる。——その結果、1兆4000億ドル以上ものお金が国外で閉じ込められたままになっている。我が国が直面する深刻な経済的苦境に照らし、連邦議会はこれらの障害を取り除き、このお金が米国内で活用されるよう促すべきである。そうした措置は、我が国の経済に対し直ちに刺激をもたらす可能性がある」(註3)

 1兆4000億ドル($1.4 trillion)といえば、ざっと換算して116兆円以上。日本の国家予算1年分を軽く上回り、2013年度の財政赤字額約9770億ドル(Congressional Budget Officeの試算)をも優に超えるこの膨大なお金を、「米国の景気回復、雇用促進に役立てよう」というWIN Americaの主張は、一見ごくまっとうなものに思える(註4)。

 ふだんはそれぞれの市場や特許権をめぐる裁判の法廷で熾烈な争いを繰り広げている大手各社が、この件に関してはさっさと「大同団結」——あるいは「呉越同舟」——を決め込み、国難に立ち向かおうとしているかのような印象さえ伝わって来そうである。

 しかし、その一方では「Tax Holidayを実施すれば、1兆ドルの利益は国内に戻ってくるかもしれないが、それで経済や雇用が伸びるとは限らない」(註5)、「Repatriation Tax Holidayの実施は、財政赤字の増大を招き、海外への投資をさらに促すことになる」(註6)といった声も上がっている。

 この件については『Bloomberg Businessweek』誌が一貫して批判的に報道している。(註の終わりに次ページへのリンクがあります)

註1:財務省の見解

"In 2004, when the U.S. enacted a repatriation tax holiday, the goal was to encourage U.S. multinationals to pay bigger cash dividends from their overseas subsidiaries and use the cash to make investments in the United States. Unfortunately, there is no evidence that it increased U.S. investment or jobs, and it cost taxpayers billions. "

Just the Facts: The Costs of a Repatriation Tax Holiday - U.S. Treasury


註2:1兆ドルもの資金が米国経済に注入される

"Providing American businesses with incentives to invest at home is a common sense solution that will immediately inject up to $1 trillion into our economy and provide businesses with the security and certainty they need to help get Americans back to work. The time to act is now. Let's invest the money here at home - not spend it overseas.

WIN America


註3:1兆4000億ドル以上ものお金が国外で閉じ込められたまま

As you know, the U.S. tax code contains massive disincentives for American businesses to bring overseas earnings home - and as a result, more than $1.4 trillion is trapped overseas. In light of our nation’s serious economic challenges, Congress should eliminate these disincentives and encourage this money to be deployed in the U.S. so that it can provide an immediate jolt to our economy.

WIN America


註4:米財政赤字予想額の試算

CBO: Obama budget produces 2013 deficit of $977B - Businessweek


註5:国内にお金が戻っても経済や雇用が伸びるとは限らない

Tax Holiday for $1 Trillion May Lure Back Profits Without Growth - Bloomberg


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