タックスホリデーが悪例になった3つの理由

三国大洋 2012年05月14日 13時29分

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 前回、積極的な節税策を講じることで、米国外に溜め込んだ1兆ドルを超える余剰資金を有利な条件で米国内に持ち込めるようにしたいと考える一部の大企業の動き——「Repatriation Tax Holiday」の再実施を求めるWIN Americaというロビー団体と、これに異議を唱える反対派の存在に触れた。

 今回はその続きとなる。


悪例となった2004年のタックスホリデー

 反対派が、前面的な法人税制の見直し抜きで、Repatriation Tax Holidayだけを行うことに異議を唱えている理由は主に次の3つだ。

  1. 雇用創造に結びつかなかった
  2. 企業による海外事業への利益つけ替えを助長する
  3. 政府の財政赤字拡大につながる

 この3点を順番に見ていくことにしよう。

1. 雇用創造に結びつかなかった

 『Bloomberg Businessweek』が2011年3月、この件に関する詳細な記事を出している。

 それによると、2004年のタックスホリデーでは、5.25%の税率で国外にある利益を国内に持ち込めることになった(註1)。その結果、3120億ドルが米国内に持ち込まれたが、その多くが企業による自社株買い戻しや株主への特別配当にまわされ、米国内での雇用創出に役立った分はかなり少なかった。

 それどころか、ヒューレット・パッカード(HP)のように、この優遇措置を使って145億ドルもの利益を米国に持ち込みながら、翌2005年には1万4500人の従業員削減を行った企業の例もみられたという。

 雇用創出にも役立つとされて認められたこの税制優遇策、ふたを開けてみればもっぱら株主と企業経営者に利をもたらしただけの結果に終わった、ということになる。

2. 海外事業への利益つけ替え(米国での税金逃れ)を助長する

 2004年のタックスホリデーで「味をしめた」米多国籍企業は、その後、海外にプールする利益を増やし始める。将来「もう一度」があっても不思議ではない、との考えにもとづいたもので、2005年に一端取り崩されて減少した海外滞留金は、2006年には早くも2004年ピーク時の水準に回復し、それ以降増え続けるいっぽうだという。

 もっとも、Bloombergの別の記事——2011年3月の「Tax Holiday for $1 Trillion May Lure Back Profits Without Growth」のなかには、フォレスト・ラボラトリーという抗うつ剤のメーカーのもっと極端な例も出てくるから、Bloombergが詳細に報じたグーグルやNYTimesによるアップルの例は、見方によってはスケープゴートともいえそうだ(註2)。

3. 政府の財政赤字拡大につながる

 前回記した通り、NYTimesによれば「むこう10年間に790億ドルの潜在的税収減につながる」とする連邦議会の試算があるという(註3)。この数字を「何と比べてみるか」というのは結構厄介だが、2月に出された概算要求での年間(2013会計年度)の歳入予想額が2兆9020億ドル、支出予想が3兆8030億ドル、差額=赤字額が9010億ドル(参照元はWikipedia、註4)。また、今年はじめにWSJが掲載した「企業の業績回復・利益増加のペースに、法人税の増加のペースがついていけていない」という記事のなかには、「2009年からの3年間はいずれも法人税が2000億ドルを下回っている」という記述もみられる。

 なお、この数字には裏もあるようだ。米大統領選で共和党の指名候補が確実視されているミット・ロムニー氏のように、勤め先で計上した利益をすべて株主や企業経営者にまわす「パススルー」という処理を採る法人が増えている、という流れの影響が考えられるからだ。2011会計年度の法人税が1810億ドルに対し、個人所得税が1兆900億ドルというのは、そうした影響の結果と思われる(註5)。(次ページ「シスコの「株主」となったラルフ・ネイダーの配当増額要求」)

註1:2004年のタックスホリデー

「実効税率は平均3.7%だった」という指摘もみられる。

In 2005, tax-planning strategies helped lower the average tax paid on repatriated funds to just 3.7 percent, according to the Joint Committee on Taxation.

Tax Holiday for $1 Trillion May Lure Back Profits Without Growth


註2:利益つけ替えの極端な例

フォレスト・ラボラトリーという抗うつ剤メーカーは、売上のほぼ100%を米国であげているにも関わらず、利益の大半をバミューダ諸島に登記した法律事務所に付け替えることで、米国内での課税額を劇的に減らしている、とのこと。

Tax Holiday for $1 Trillion May Lure Back Profits Without Growth


註3:連邦議会の試算

The tax break would cost the federal government $79 billion over the next decade, according to a Congressional report.

How Apple Sidesteps Billions in Taxes

NYTimesは、ソース(情報源)を明示していないため「かなり恣意的に材料を選んだのでは?」と勘ぐられてもしかたがないかもしれない。あるいは、Congressional Budget Office (CBO)のウェブサイトなどにそっとあるのかもしれないが、なかなかこれだというのを見つけ出せなかった。


註4:2013会計年度の概算要求

The Obama administration's February 2012 budget request contained $2.902 trillion in receipts and $3.803 trillion in outlays, for a deficit of $901 billion. The budget projects a reduction in the deficit to $575 billion by 2018 before rising to $704 billion by 2022.

2013 United States federal budget


註5:パススルー

But corporate tax receipts, as reported by the Treasury Department, remain lackluster, even as the economy has gained some ground of late. Although they have trended higher in recent months, corporate taxes measured on a 12-month basis were still under $200 billion in November. That is well below a precrisis peak of about $380 billion and still far below the government's fiscal 2012 target of $332 billion. Although corporate taxes are a smaller part of the government's revenue base - individual income taxes in fiscal 2011 were $1.09 trillion, compared with $181 billion in corporate taxes - any falloff is yet more bad news for the deficit. It also highlights the challenge the government faces in bringing the deficit under control absent structural changes such as reform of the tax code.

The slow growth of tax receipts also means the government may have to revise down its 2012 projection. That happened last year: The government initially projected corporate tax receipts of $280 billion and as the year progressed whittled it down to $194 billion.

U.S. Tax Haul Trails Profit Surge

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