フリードマンがサンデル本人の口からこうした話を聞いたのは、3月初めの「オンライン学習とレジデンシャル教育の未来」と題されたカンファレンスに参加するため、ボストンに足を運んだ時のことだったらしい。
このカンファレンスのアジェンダについて、「MOOCで何でも無料で学べるような時代に、どうすれば大学は年間5万ドルもの授業料をふんだくれるか」(註4)と一言で言い換えてみせるあたりに、人気ジャーナリストならでは巧さとあざとさが感じられるが、この集まり自体は至って真面目なものだったようだ。
また、主催したMITとハーバードの2人の学長が連名で寄稿記事を地元紙Boston Gloveに寄せてことからも、両校の力の入れようが伝わってくる(註5)。
フリードマンはコラムの中で、オンラインの講義と自宅学習、それに教室での実験やディスカッションを組み合わせた「混合型モデル」について書いている。
サンノゼ州立大学が昨年秋に実施したこの授業、MITが作成・公開した電子工学の入門講座を利用し、教室では15分間を質疑応答、残りの45分間を問題解決とディスカッションに使う手法を採ったとある。
興味を引くのは、こうしたクリック・アンド・モルタル式の授業を行った結果、学生の修了率が以前の約60%から90%まで高まったという点だ。
これを踏まえてフリードマンは、「従来型の教育から得られる経験には、依然としてとても大きな価値がある——つまり、いろいろ解決する問題もあるけれど、大学にはまだまだ生き残るための方法がある」と書いている。
ただし、たとえばデジタル化やグローバル化の流れのなかでよく言われる「勝者総取り」のような傾向を踏まえれば、比喩的な意味で「プラットフォーム」となるサンデルの講義と、そのプラットフォームに乗る形でリアルな教室での授業を取りしきる他の講師との利益配分がどうなるのか、といった点に関する予想などはない。細かな話ではあるが、このあたりの議論が具体化するのはもう少し先、ということになるのだろうか。