本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今週は、国立情報学研究所の佐藤一郎教授と日本ユニシスの黒川茂代表取締役社長の発言を紹介する。
「共通番号(マイナンバー)の基盤技術としてIDが使われているが、IDだけでは無理がある」 (国立情報学研究所 佐藤一郎 教授)
国民全員に番号を割り振る共通番号制度関連法案、いわゆる「マイナンバー法案」が5月24日、参議院本会議で自民、公明両党および民主党などの賛成多数で可決し、成立した。このマイナンバー法にかかわる技術に関連して、国立情報学研究所(NII)が5月16日、ID(識別番号)をテーマに記者懇談会を開いた。佐藤氏の冒頭の発言は、IDに詳しい同氏がさまざまな話題を取り上げた中で、IDとしてみた共通番号についての見解を述べたものである。
国立情報学研究所の佐藤一郎 教授
佐藤氏はアーキテクチャ科学研究系のNII教授として、分散システムやクラウドコンピューティングの基盤技術が専門分野だが、一方でRFIDタグの応用研究を行っていることから、RFIDタグやバーコードのISO規格委員も務めている。
そんなIDの専門家の目からすると、IDとしてみた共通番号は、どうやら問題を抱えているようだ。佐藤氏は「IDだけでは無理があると認識しているものの、現状では法案審議が進められている共通番号制度を否定するものではないし、確固たる改善策があるわけでもない」と前置きしながら、IDだけでは無理がある点について次のように説明した。
「IDというのは、例えば個人や法人を区別するために割り当てられるもので、IDを使って本人かどうか、本物かどうかということを認証するための技術ではない。IDを認証手段として使おうとすれば、そのIDを他者に知らせる必要が出てくる。他者に知られた情報はいずれ広まることも考えられ、なりすましなどを完全に排除することができない」
その上で同氏は、「なりすましなどを完全に排除できないのは、この分野で先行している米国や韓国の状況をみても明らかだ」と語った。
IDの専門家の指摘だけに、この問題点については耳を傾ける必要があるだろう。そこで筆者は、「確固たる改善案がない」という同氏に、あえて改善策の方向を見出すとしたら、どんなことが考えられるか、と問うてみた。すると、こんな答えが返ってきた。
「例えば、個々のIDから使い捨ての番号を生成して利用する。IDそのものは他者に知らせない仕組みづくりが必要だ。現在、法案審議が進められている制度では、ICカードと組み合わせることも議論されており、そこに何らかの改善の糸口が見出せるかもしれない」