こうした制度的な問題をクリアすればスマートデバイスの導入は成功する、と言い切りたいが、実は最後に大きな落とし穴が待っている。それは「ユーザー自身の心理的な抵抗」である。
多くの場合、スマートデバイス導入を最初に検討するのはユーザー部門である。しかし、この導入(むしろ、定着というのが正しい表現であるが……)に最も強く反発を示すのは、実はユーザー自身であるという矛盾を事前に知っておかなければならない。そのため、ユーザーとのコミュニケーションは重要だ。
スマートデバイスを導入することで、ユーザー自身の働き方が少なからず変わるため、その影響が出てくる。例えば、スマートデバイスが長時間労働を強いる印象をユーザー自身に与えたり、遠隔から実施する業務が多くなることで、上長とのコミュニケーションが困難となり、仕事を正当に評価してもらえなくなるのではないかといった不安を感じるようになる。
BYODでは、私物端末に業務用の機能を入れることになるため、公私の切り分けが不明確になることへの抵抗感も出てくる。
このようなユーザー自身の心理的な抵抗感は決して無視できない。こちらで説明したように、UI/UXでアプリ設計をいかに高度化しても、ユーザー自身の心理的な抵抗はなくならない。ユーザーの不安をいかに取り除くのかが重要だ。
成功企業に一致しているのは、小さく始めて、試行錯誤しながら拡大している点である。この際、試験導入の際に誰を巻き込むかが非常に重要であることが共通点だったのは印象的だった。

モバイルワークとBYOD導入の課題
スマートデバイスを導入し、ワークスタイル変革をするための留意点として、人事面と、従業員とのコミュニケーション面との2つに注目して解説してきた。
スマートデバイスの導入は、成功すればビジネスの変革に貢献することは知られているが、一筋縄にはいかないことも理解してもらえたと思う。本稿が読者諸氏のタブレット導入における取り組みの一助となれば幸いである。
- 千葉 友範
- デロイト トーマツ コンサルティング マネージャー 大学院在籍中にIT系ベンチャー設立に参画を経て現在に至る。業務改革プロジェクトを中心に実施し、近年では、デジタルデバイスを活用したワークスタイルチェンジや販売力強化など、戦略策定から実行支援までプロジェクトを多数実施。「会社で使う タブレット・スマートフォン2013」など執筆多数。
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