インターネットは個人の力を増大させ、その働き方も価値観も変えていく。もはや大企業に所属する必然性はなく、インターネットを通じて個人と個人がチームを組成してビジネスを回していく。
競争はグローバル化するが、チャンスもそれだけ増大する。これは、巨大企業や一部の特権階級から、富や力が個人へとシフトする一つの可能性を示唆する。
確かにクラウドソーシングやクラウドファンディングなど、個のパワーを裏付けとする「クラウド」系サービス、あるいは「PtoP」を標榜する個人と個人が直接取引を行うことができるプラットフォームがさまざまな分野に浸透し、インターネットはわれわれの力を増大させる。
一方、リーマンショック後に米国で起きた「ウォール街を占拠せよ」運動で指摘されたのは、1%の超富裕層のみが富を膨らませ、残る99%は富を減少させているという事実であった。もはやパレートの法則(20:80)ではなく、今議論される超格差の問題は1:99という極めて極端なものである。貧困の撲滅をミッションに掲げるOxfamがダボス会議に合わせて公表したレポート「Working for the Few」によると、
- 世界の富の半分は1%の人々によって所有されている
- 世界で最も裕福な85人が所有する富は、世界の人口の貧しい側の半分(35億人)が所有する富の合計と等しい
- 調査した26カ国中24カ国で、最も裕福な1%の人々が収入におけるシェアを拡大している
ということである。そして、この傾向がインターネットを使ったビジネスモデルで先行するアメリカにおいて特に顕著なのだ。
つまり、富める者へますます富が集中する流れが強い。アメリカの個人の金融資産は早々にリーマンショック前の水準を回復しているが、その増加分の95%は1%の富裕層に流れ、90%の人々は富を減少させている。
ちなみに、富が偏在化していく傾向において、日本もトップ10にランクインしている。Oxfamはこうした現状に対し、課税や富の配分などの政治主導のアクションの必要性を唱えている。
一方、インターネット利用者は依然として世界の人口の40%程度で、注目を集めるクラウド系サービスやPtoPの仕組みは、まだまだ一般化したとは言い難いレベルにとどまっている。政策によって大鉈を振るうのも大切かもしれないが、生活者自らがテクノロジの力で自らの富を守り、増やしていくような仕組みが社会を変えていければ、より面白いだろうと思う。
人の幸福度は年収が750万円を超えると、いくら稼いでも変わらないのだそうだ。むしろ、その使い方が幸福度を左右するのだそうである(クーリエ・ジャポンVol.111 『「いくら稼ぐか」よりも「何を買うか」 幸福度を上げる“正しいお金の遣いかた”』)。インターネットを使ったクラウド系のサービスやPtoPのサービスは、実はコストを削減したり利回りを高めたりする効果だけでなく、そこに使うことの喜びやユニークな体験が付いてくることにも注目したい。
例えば、クラウドファンディングであれば、どんなプロジェクトや事業に資金を出すのかを自分の意志で決めることができる。AirBnBのような宿泊サービスであれば、ホストと宿泊者は、部屋の貸し借りを通じてコミュニケーションを楽しむことができる。
つまり、ネットを通じた新しいサービスは、単なる効率化や収入アップといった話ではなく、新しい体験が伴っていることにも価値がある。富の偏在化の是正も必要かもしれないが、ある程度のレベルを超えると、むしろ使い方から得られる体験がより重要なテーマになることを忘れてはいけない。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。