三国大洋のスクラップブック

アップル電子書籍訴訟の陰にアマゾンとオバマ政権のクサい仲

三国大洋

2014-02-18 07:54

 今日はいつもと趣向を変えて米出版界と政治の関わる話題をひとつ。

 しばらく前から米国で、Appleの電子書籍販売サービス「iBooks Store」をめぐる米政府とのゴタゴタが続いている。先ごろ、老舗雑誌のThe New Yorkerに掲載された『Cheap Words - Amazon is good for customers. But is it good for books?』という長文記事のなかに、このゴタゴタに関連する興味深いティップスをみつけた。

 AppleがiBooks Storeのサービス開始(2010年)にあたって、大手出版社5社と談合したとする訴えが米司法省(DOJ)から出され、これに対してニューヨークの連邦地裁で独占禁止法違反の判断が下されたのが2013年7月。この判決以前に出版社5社はいずれもDOJとの示談に合意していたが、Appleだけは和解に応じず、判決が出された後もこれを不服として控訴していた。

 またその後10月には同地裁のDenise Coteという判事が、旧知の仲とされるDOJ出身者の弁護士Michael BromwichをAppleの監視人(monitor)に任命したものの、この監視人が「経営陣や取締役に対する聞き取りなど、越権行為をしようとした」「法外な料金(「2週間で13万8000ドルあまり」)をAppleに請求しようとした」などとしてAppleから更迭を求める訴えも出されたが、先週初めには米控訴裁でもAppleの訴えを実質的に却下する判断が下されていた(任命した地裁判事からは訴えを却下する判断がすでに1月半ばに出されていた)。

 このあたりの経緯と詳細については、文末の「参照情報」に記したそれぞれの記事をご覧いただければと思う。

 Appleに対してクロの判断が下された理由は、同社が「iBooks Store」スタートに際して、電子書籍の小売価格を出版社側で決められる「エージェンシーモデル」という取引形態を取ったことで、結果的に価格が値上がり、消費者の利益が損なわれた、というもの。それまでAmazonは紙の書籍の時代から「買い切り」で仕入れ、自社で小売価格を決めていたが、周知の通り、原価ギリギリあるいは原価割れするような価格をつけることも多く(その一部は、出版社から「販促協賛費」の名目で巻き上げたお金で補填していた)、結局のところ、そうしたアグレッシブな商売のやり方のツケは、実質的に仕入れの条件を叩かれる出版社に回されていた。

 そうした事情(従来からの不満)もあり、また「iBooks Store」スタート前には、電子書籍の分野でAmazon Kindleタイトルのシェアが全体の9割にも達していたため、そのことに大きな危惧を抱いた出版社側が、場合によっては正味の実入りが減ることを知りつつ、Appleの提案に乗るかたちで「エージェンシーモデル」への切り替えに踏み切った。また和解に応じなかったAppleの側には、司法当局が小売価格の上昇という部分だけをとらえて、Amazonが潜在競合者が参入できないような安い価格をつけていたこと――「predatory pricing」(略奪的価格設定)とあるが、いわゆる「ダンピング」に似た性質のものだろう――を見過ごしているとか、書籍出版・流通の全体に対する影響を考慮していない、などといった不満があったらしい。

 以上は、『Cheap Words』を書いたGeroge Packerの説明。Packerは、紙の世界で活動する(=ニューヨークの出版社、CondeNastの禄を食む)人間だから、この記事ではAmazonに対してかなり批判的な立場をとっているとの印象を受ける。『Cheap Words』というタイトルをつけたこと自体からもそうした感じが伝わってくる。

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