あなたが最近した買い物で、実店舗で商品を買い、家まで持ち帰ったのはいつだろうか。アジアに住む多くの消費者にとって、実店舗は唯一の買い物の場ではなくなっている。店舗で購入した商品を自宅に配送してもらうことも、オンラインで購入した商品を実店舗で受け取ることも可能だからだ。完全にオンラインを舞台にした買い物やモバイルショッピングも伸びている。
Hall & Partnersのマネージングパートナー、Arnaud Frade氏はシンガポールで最近開催された「Retail Innovation & Management Forum」で、消費者にとっては「実店舗vsEコマース」という議論は存在していないと語った。同氏によれば、小売業にとって問題なのはむしろ選択肢の多さだ。
リアルかオンラインかの議論は顧客視点ではない
「『リアルかオンラインか』という議論は、あくまで企業の視点から発生した議論であって、顧客の視点に立ったものではありません。消費者にとっては、買い物の選択肢がどれだけそろっているかが重要なのです」(Frade氏)。
小売り企業は、積極的にEコマースに乗り出すべきだろうか。同フォーラムで、Eコマースを取り巻くさまざまなトピックを議論したパネルディスカッションでは、「オンラインビジネスは間違いなく利益を生み出す原動力になるが、その一方で、オンラインだけに絞るか、あるいはいくつかのオプションを同時に提供する方が良いかは戦略次第だ」という意見が参加者の間で一致した。
「Eコマースを恐れる小売り企業も多いですが、その必要はないはずです。Eコマースは、事業を補完する存在だと考え、実店舗をバリュードライバーの1つ、あるいはオンラインの売り上げを伸ばすためのツールとしてとらえればいいのです」と語るのは、Singapore PostのEコマース担当シニア・バイスプレジデント、Marcelo Wesseler氏だ。
創業150年を迎えるSingapore Postは、ビジネスモデルの転換を経て、現在では東南アジア全域の200を超えるブランドや小売り企業と取引をしている。Wesseler 氏はEコマースについて、多くの見識を持つ。
「カテゴリに関して言えば、特に(オンライン化するにあたって)大きな制約はありません。ハイエンドのファッションを扱う場合は、サイズなどの面で注意が必要ですが。オンライン販売に適した商品もあります。例えば、日用品や電化製品、電子書籍、自動車などです。オンラインで車を買うなんで、以前は誰が考えたでしょうか?」(Wesseler 氏)
しかしながら、アジア地域に高級ブランドの流通事業を展開するBluebellのグループデジタルデイレクター、Marc Ardisson氏は、高級品の場合、オンライン専門の小売りは必ず成功するとは限らないと語る。
「オンラインに移行する前に、まずブランドや各製品に磨きをかけ、顧客からの認知度を高めておくことが重要です。アクセサリやシューズ、バッグ、小物類などの限定されたセグメントの場合、確かにオンライン販売にはメリットがありますが、高級既製服の場合は非常に難しいと言えます」(Ardisson氏)。