千葉:業務効率化の取り組みに失敗しているということですか。
田中:そうとも言えません。むしろ、まじめな企業ほどムダをなくすことに成功しているのではないでしょうか。
千葉:では、なぜ日本は長時間労働国のままなのでしょうか。日本人は、気質的に仕事が好きなんですか。
田中:以前、千葉さんが挙げていた「日系企業でPCを持ち出しできる企業が 30%程度」というデータにもヒントがあると思います。
千葉 友範氏
現在、社外で業務ができるIT環境を準備されている企業が30%だとすると、人事制度などの人事労務面の環境を整備されている企業はもっと少ないということです。
自宅やオフィス以外で仕事を済ませられれば、効率を上げられると思われますが、人事労務の観点から具体的な検討や対応がなされないため、業務改善や改革の施策としても実現できずに終わっているケースがあります。
千葉:制度であれば変更してしまえばいいのでは。
田中:簡単ではありませんが今後、コンシューマーが使うIT環境を企業も使う、いわゆる「ITのコンシューマライゼーション」の動きが進めば、BYODの環境不整備は従業員の不満をあおるでしょうし、ITガバナンスの観点からもシャドーITを許容していることになります。情報漏えいなど会社は相当なリスクを抱えた状態になります。この歪みを解消しないと問題が起きてしまうかもしれません。
千葉:クラウド型の名刺管理アプリやストレージは今やなくてはならないツールであり、シャドーITが進みつつあるとも言えそうです。
田中:ITガバナンスからすると、個人が外部のストレージに会社のデータを置くのはご法度ですが、禁断の果実でしょうか。移動時間や次の商談までの待ち時間に、メールチェックやスケジュール調整が可能なだけでも、1日2時間程度の時間短縮につなげられるという事例もあり、モバイル化の効果が見込めます。
ただし、くり返しになりますが、多くの企業はまだ、モバイルでメールチェックができず、PCを外に持ち出すこともできないというのが実態です。長時間労働国にとどまる理由はこのあたりにもありそうです。
千葉:従業員には改善を求める一方で、そうしたITや人事労務面での環境を会社側が用意しないというのは良い状態とは言えませんね。業種業界によっても、ワークスタイル変革への取組みには違いがあるのでしょうか。
田中:先日われわれが調査したワークスタイルサーベイの結果をみるとその違いは分かります。
多くの企業はワークスタイルの変革には興味をもち、経営改善の目的に掲げていますが、残念ながらまだそれを実現するには至っていない状況です。