中央省庁が外部のメーリングリスト(ML)サービス「Googleグループ」の設定を間違っていたために、誰もが見られる状態になっていた問題が2013年7月に明らかになった。
この問題は、さまざまな視点から議論を呼んだ。例えば、中央省庁の情報を取り扱う体制に問題があるといった議論がそうだ。ZDNet Japanでも、この問題に対して企業のIT部門が管理できない“シャドーIT”に潜む危険性、つまりは、セキュリティ上の課題として議論を展開した。
だが、この問題を俯瞰してみると、組織で稼働している情報系システムが現状に合っていないのではないかとも指摘できる。組織内で提供される情報系システムが現状にあったものであれば、外部のサービスを活用する必要がなかったはずだ。情報系システムが提供する機能、活用する仕組みなどが現実的ではなかったからこそ、こうした事態を招いたとも表現できる。
情報系システムといえばメールやグループウェア、音声や映像の会議システムを思い浮かべる。最近では、ユニファイドコミュニケーション(UC)や社内SNS、ファイル共有といったものも含まれる。
現在の情報系システムをある見方で表現すると、従来のメールやグループウェアでは足りなかった部分をUCや社内SNS、ファイル共有が補っているとすることができる。その一方で、現在の情報系システムは、提供される機能ごとにツールが断片化しているとも言える。言い方を変えると、エンドユーザーが必要とする情報がツールごとに断片化しているとも言える。
情報系システムが必要とされるのは、企業という組織が業務をこなしていく上で必要とされる情報を共有するためだ。例えば営業部門は今月どんな活動をするのか、何が目標で何をなすべきなのか、その課題からブレイクダウンして、営業部門に所属するエンドユーザーは具体的にどんな行動を取るべきなのか、そのすべては情報を共有することが前提だ。
こうした情報系システムのそもそもの目的で考えた時、現状の構成や活用方法は最適なものと言えるだろうか?
なぜ情報系が重要なのか
日本企業で情報共有を前提とするホワイトカラーの生産性は海外と比べて低いという事実は、以前から統計データに表れており、その傾向は変わっていない。だが、日本の製造業の製造部門の生産性は海外と比較してもトップクラスというのも事実だ。
日本企業のホワイトカラーの生産性が低いという傾向の背景にあるのは、さまざまな要因(例えば、稟議のための根回し、会議のための資料作り、年功序列など)が考えられるが、その一端として情報共有体制の非効率性もあるのではと推測できる。
情報系システムの伝統的ツールとも言えるメールを使わないホワイトカラーは皆無だろうが、すべての情報をメールでやり取りしている場合、メールがあふれすぎて結果的に大事な情報を単独の部署でも共有できていないといった状況は、容易に想像がつくだろう。
ホワイトカラーの生産性が低い日本では、2013年からワークスタイルの変革が叫ばれている。このワークスタイルを柔軟で効率的なものに変えていこうとする時に重要となるのが、やはり情報共有体制の効率化だ。効率化を考えていくと、情報系システムのあり方、どのような仕組みで情報を共有していけばいいのかを検討し直す必要がある。
ワークスタイルの変革が求められているという世論の背景にあるのは、就労人口の減少という現実だ。少子高齢化という流れは誰の目にも明らかであり、働き手の数が少なくなっていくが、仕事の数は変わらないどころか増加する可能性があることは肌感覚として想像できるはずだ。
ここで重要になってくるのが、介護や育児などをせざるを得ない従業員への対応だ。時間短縮勤務や在宅勤務の仕組みなどで有能な人材を活用することが求められている。ここでも重要になってくるのが、やはり情報系システムの最適化だ。
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今回から始まる特集では、以上のような問題意識から取り組んでいく。特集の前提となる視点から非常に注目すべき調査結果が3月に発表されている。日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)とアイ・ティ・アール(ITR)が共同で調査した企業ITの利活用動向だ。
この調査は、重視する経営課題やセキュリティに対する取り組みの状況を分析したものだ。重視する経営課題は前回と同様に「業務プロセスの効率化」がトップだが、今回の調査では2位に「社内コミュニケーションの強化」、3位に「社内体制・組織の再構築」が入っている。
特集の次回は、今回の調査にかかわったITRシニア・アナリストの舘野真人氏に、調査結果から見えてくるもの、情報系システムのあり方などを聞く。