情報を制するものは災害を制す--医療現場から考える情報共有“速度”の重要性

遠山恵子 (インサイト) 2014年10月23日 12時53分

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 シスコシステムズは10月21日、医療現場向けの「Cisco Connected Healthcare Solution」に関する記者説明会を開催。緊急・災害医療と高齢者医療という2つの分野で2人の医療関係者を招いて、それぞれの取り組みを紹介した。

 Connected Healthcareは、ICTを活用して医療現場での迅速な情報共有や円滑なコミュニケーションを推進できるという。公共、医療担当シニアソリューションズアーキテクト兼ビジネスデベロップメントマネージャーの岩丸宏明氏は、コンセプトについて「医療現場は、ITにより大きな変革が進んでいる。モノとモノ、モノとヒトの間に介在するネットワークを提供するのがわれわれの仕事だ。最終的にはヒトとヒトをつなぐ“クリニカルコラボレーション”までを視野に入れている」と説明した。

岩丸宏明氏
シスコシステムズ 公共、医療担当シニアソリューションズアーキテクト兼ビジネスデベロップメントマネージャー 岩丸宏明氏

 たとえば、緊急・災害医療の現場では、Connected Healthcareを使って医療機関や医師、患者の間で迅速で的確なコラボレーションを支えるという。高齢者医療の現場では、施設と職員と高齢者をつなぐネットワークを構築する。緊急・災害医療での取り組みについては国立病院機構 災害医療センター 臨床研究部の高橋礼子氏(厚生労働省DMAT事務局)が、高齢者医療の取り組みについては、京都府立医科大学 大学院医学研究科 精神機能病態学 成本迅氏がそれぞれ話した。

情報伝達の失敗が現場活動の失敗につながる

 高橋氏が所属するDMAT(Disaster Medical Assistance Term)は、厚生労働省が1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに医療機関、医師、看護師、業務調整員をまとめて設立した「災害急性期に活動できる起動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」だ。

 阪神・淡路大震災では、初期医療体制の遅れから「避けられた災害死」が約500人存在した可能性がある。重症患者の広域搬送が行われなかったり、医療情報がまったく伝達されなかったりしたためだ。たとえば、震災当日に1人の医師が診療した患者数を見ると、神戸大学附属病院が患者366人を医師112人で診ていたのに対し、別のある病院では、患者1033人を医師7人で診ざるをえない状況に追い込まれた。

高橋礼子氏
国立病院機構 災害医療センター 臨床研究部 高橋礼子氏(厚生労働省 DMAT事務局)

 「それぞれの医療機関の医師が自らを“最後の砦”と決意してベストを尽くした。情報通信が行き渡っていれば、(適切な数の医師を患者に割り当てるなど)もっと有効な活動ができたはず。“情報を制するものは災害を制す”“情報伝達の失敗が現場活動の失敗につながる”との考えから災害急性期医療体制を推進した」(高橋氏)

 災害現場の情報通信でカギを握るのが、病院や省庁、“SCU(Staging Care Unit)”と呼ばれる、疾病者を最初に治療する広域搬送拠点臨時医療施設などをネットワークで結び、安否確認情報や医療情報をすみやかに共有するためのシステム「広域災害・救急医療情報システム(EMIS)」だ。EMISを使って広域搬送や病院支援、域内搬送など災害医療の情報・指揮調整を迅速に展開するという。

 ただ、東日本大震災では想定外の事態となった。「通常回線や人工衛星携帯電話がつながらないケースがあった。EMISも使えず、代替の通信手段がないという状態に陥った。通信の孤立した石巻市立病院では、院内に患者150人が取り残され、事務局局長と医師が水に浸かりながら役所まで出向いて救助を求めた」(高橋氏)という。こうした反省から、人工衛星携帯電話によるデータ通信体制の確保、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や民間事業者と連携した人工衛星ブロードバンド「IPSTAR」の活用を図るようになった。

 シスコは2012年から、広域医療搬送訓練に参加し、DMAT隊員のSCU内インターネット環境の構築や活用を通じて、訓練での情報共有やコミュニケーション環境を提供している。具体的には、DMAT事務局からの要請を受け、訓練被災地やSCUへの人工衛星インターネットを活用したコミュニケーション基盤サービス「Cisco ECK(Emerging Communication Kit)」を展開。東日本大震災でも各避難所に提供され、IP電話の無料利用やSNSのアクセス環境として無線LANを含むネット環境を提供した。

 訓練時のEMISへの現場での入力や参照、ウェブ会議を提供するための「WebEx」を提供、電子トリアージや動画配信に利用するための環境も提供している。直近の2014年の訓練では、シスコのルータが搭載されたIPSTARで複数拠点での高速通信ネットワーク環境を構築した。高橋氏は「IPSTARの固定局と車載局を組み合わせることで、重要拠点や被災地最前線での高速通信ネットワーク構築が可能だ。訓練、協力体制の構築を進めていく」とした。

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