Christopher Nolanが監督した映画「ダークナイト」には、ブルース・ウェインの長年にわたる執事であり友人であるアルフレッド・ペニーワースが、ジョーカーについてこう言う場面がある。「世の中には金のような論理的なものを求めているのではない人々もいる。そうした人々には、買収や脅し、理屈は通じず、交渉も成り立たない。彼らはただ、世界が燃え上がるのを見たいだけなのだ」
インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス(IaaS)の価格競争を見ていると、同じようなことがクラウドの世界でも起こっていると感じるかもしれない。
RedmonkのアナリストのStephen O'Grady氏の分析によれば、「Amazon Web Services」(AWS)が価格ゼロへの競争をリードするなかで、「ほぼ全ての(IaaS)プロバイダーの軌跡は下向きになっている」という。しかしこの度胸試しでは、価格をゼロにすることがAWSの戦略の全てではない。実際のところ、「Amazon Aurora」のような新サービスは、同社が利益を非常に重視していることを示している。
あるいは、重視しているのはむしろ、競合企業の利益をなくすことだ。
価格設定の度胸試し
企業にとっては早いクリスマスが来たように思えても無理はない。長年にわたって、AWSは価格を下げ続けてきた。O'Grady氏の図が示すように、実はAWSは計45回の値下げをしており、市場も追随を強いられている(図A)。
図A
IaaSの平均基本価格の推移(2012年1月~)
しかし、AWSクラウドのチーフであるAndy Jassy氏は、競合企業は重要ではないとしている。
「(AWSの価格は)値下げの競争圧力が何もない状況で大幅に値下がりしてきている。つまりわれわれは、見せびらかすためにそうしているのではない。また、自分たちに注目を集めようとしてそうしているのでもない。コスト構造を効率化できる場合には必ず、その利益を懐に蓄えるのではなく、値下げという形で顧客に還元しているだけだ。われわれが非常に一貫して値下げをしているのはそれが理由だ。これは今後も続くだろう」
その通りかもしれないし、そうでないのかもしれない。しかし、そうした価格設定が競争に影響を与えているのは間違いない。MicrosoftとGoogleには、インフラストラクチャに絶えず投資し、それを薄利または利益なしで提供する余裕があるものの、より小規模な競合企業にはその余裕はない。こうした小規模な競合企業は、AWSがその顧客に低価格の恩恵を授けるたびに、痛みを感じている。