クラウドという言葉がニュースで使われるようになって久しいが、Goldman Sachsの新たなレポートによると、ほとんどの企業はクラウドの利用という点では表面を引っかいた程度に過ぎないのだという。同レポートでは、3000億ドル規模という企業IT市場でクラウドが占める割合は2014年の段階で5%だが、2018年には11%にまで上昇するとされている。
これは喜ばしい話であり、「Amazon Web Services」(AWS)がリーダーシップを発揮している証とも言える。しかし、やるべきことはまだまだ残されている。その点において、クラウドの普及に向けた「OpenStack」の取り組みは不満が残るものとなっている。どちらかというとOpenStackは、プライベートクラウドを過度に複雑化させる方向に動いている結果、業界を前進させるのではなく後退させている。
クラウドのもたらすメリット
クラウドのメリットは利便性がすべてだ。その黎明期には、クラウドは安価であるため成功を収めると多くの人々が考えていた。しかし、そのようにはなっていない。クラウドの採用によって必ずしも安価になるわけではなく、コストという観点での予測可能性すら向上できない。
クラウドがもたらす最大のメリットは利便性、すなわち企業の官僚的な側面に気を使うことなく、スケーラビリティのあるアプリケーションを構築できる柔軟な方法が開発者に与えられるというものだ。このような利便性によって、Goldman SachsのレポートにもあるようなIT支出におけるクラウド比率の高まりがもたらされている。
上:クラウドのインフラとプラットフォームの市場規模
下:企業のIT支出全体に占める割合
ただ、その比率は高まっているが、まだ比較的小さな値でしかない。
クラウドに対する支出の伸びは一般的なIT市場の伸びを大きく上回っている。2018年までの年平均成長率(CAGR)で見た場合、従来型のIT支出は5%であるのに対し、クラウド関連の支出は30%となっている。しかしそれでもクラウドは、2018年における全IT支出のうちの11%強にしかならないと予想されている。
同レポートではEMCやIBM、Oracleがクラウドコンピューティングの潮流に押し流される危険があると述べられているが、上述したクラウドへの支出の比率を見る限り、これら企業が体制を立て直し、クラウドへの対応を考え直す時間はまだあるはずだ。Oracleについて言えば、同社は何年もクラウドを歯牙にもかけていなかった。しかし、四半期ごとの収益報告書の数字は一向に好転しなかった。このため、同社はついに重い腰を上げたが、方向転換に苦心している状況だ。
こういった一部の巨大企業に対する回答が、少なくともある意味においてOpenStackであった。しかしOpenStackは、クラウド企業が本当に探し求めているものではないのかもしれない。
多くの企業がOpenStackを試している
OpenStackコミュニティーの成長には目覚ましいものがあり、それゆえに企業は本番環境での採用に興味を示している。
OpenStack認定エンジニアに対する需要は供給を大きく上回っており、Red HatがスポンサーとなったIDGの調査によると、企業はようやくOpenStackを本番環境に移行させようとしていることが示唆されている(左図のOpenStackに関する調査データも参照されたい)。
こういった移行の主たる理由は、より大きなイノベーションに向けた探求のように見受けられる。2014年11月に発表されたOpenStackに関する調査データによると、OpenStackが受け入れられている最大の理由は、これによって「イノベーション能力」が高まると信じられているためだ。
これが現実世界でも理論通りに適用できればよいのだが。
現実のOpenStackは、極めて複雑なものであり続けている。その理由は、OpenStackの魅力をなすものと表裏一体をなしている。
それはコミュニティーだ。