連載第3回となる今回は、自動車とICTの関係について考えてみたい。
自動車を取り巻く世界における通信・情報技術の利活用については広く知られており、例えばITS(Intelligent Transport System:高度道路交通システム)やETC(Electric Toll Collection)などは、耳に馴染んだ言葉だろう。
特に、ETCに関してはおよそ90%の普及率(H24年国土交通省)と言われており、高速道路を利用する際の必需品ともいえる状況である。このETCにおいて、車載器とETCレーンとの間で5.8GHz帯の電波を利用していることも、当コラムの読者の皆様には比較的知れわたっていると思われる。
VICS(Vehicle Information and Communication System)も、多くのカーナビに搭載されており、渋滞の回避などに役立っている。
さらに、ADAS(Advanced Driver Assistance System)も、昨今急激に知名度を上げた概念だろう。ステレオカメラや76/77GHz帯のミリ波、24/25GHz帯の準ミリ波あるいは赤外線レーザを用いて、自動ブレーキや自動前車追従機能、レーン逸脱防止機能などが多くのクルマに搭載されつつある。スバル(富士重工)の「EyeSight」は、その普及の先駆けとなったと言えるだろう。
このように、現在の自動車は、必ずしも社会システムと独立して動いているのではなく、いわゆる「つながるクルマ」であり、情報通信社会の一員としてさまざまなシステムとコミュニケーションを取りながら、エコシステムを形成しているのである。
おそらく、多くの読者の方々にとって、この「つながるクルマ」には目新しさを感じることはないのではないかと思う。第1回、第2回でも述べたとおり、あまり注目されないICTの利活用に光を当てるのがこの連載の趣旨であるため、少し長くなってしまったが、ここまでは前置きである。
今回考えてみたいのは、車内LAN。「社内」LANではなく、「車内」である。
すなわち、クルマと外とのコミュニケーションではなく、クルマの中におけるコミュニケーションの動向についてご紹介したい。
前回の連載「通信のゆくえを追う」の 2013年11月の記事で、飛行機の中におけるWiFiを利用したインターネットについて考えてみた。
そのときには意識していなかったのであるが、自動車の社内空間をWi-FiのHotSpot化するという動きが出てきた。
もちろん、商用のバスサービスにおいては既に普及しているのであるが、個人のクルマの中の話である。
例えば、パイオニアが開発した「ミラー型テレマティクス端末」は、ルームミラー(バックミラー)の形状のナビゲーションデバイスである。これは、NTTドコモの「デバイスプラス300」という通信サービスの利用に対応してしており、これによってインターネットへの接続が可能になる。
それだけではなく、車内向けにWi-Fiアクセスポイントの機能を提供することができ、車内からタブレットやゲーム端末をWi-Fi経由でネット接続することが可能になるのである。
さらに、ワイモバイルが発売した端末はそのものずばり「Car Wi-Fi」である。「シガーソケットに挿しこむだけで車内がWi-Fiスポットに!」という説明が付けられている。
このような利用形態が普及するのかどうか、現時点では定かではないが、車内LANの世界はここまで迫っているのだ。