システムの概要
ここ30年間で設置された近代的なエレベータでは、人が乗る「かご」と呼ばれる部分を効率よく動作させるために複数の組み込みコンピュータが使用されている。このようなシステムでは、行き先階ボタンが押されたことや、ドアが開閉されたことを示すデータのほか、かごを昇降させるモーターがどれだけの頻度で動作しているのかや、かごが運搬している重量といった数多くのデータが生成される。
こういったエレベータシステムでは、エラーコードやイベントコードも生成され、それらはメンテナンスエンジニアが定期点検時に確認し、作業の目安にできるようになっている。
ThyssenKruppはこれらコードの他にもエレベータの運用に関係するさまざまなデータを収集し、Azureプラットフォームに日々送信する装置を追加しようと計画している。
ThyssenKruppはこのような方法でエレベータの運用状況を監視し、いつどこでメンテナンスが必要となるのかを導き出そうとしている。定期点検を一定期間ごとにスケジュールしておくのではなく、各エレベータの動作状況にあわせてそのような点検の頻度や内容を決定するというわけだ。どれだけの頻度でドアが開閉したのかや、エレベータの動作に必要だったエネルギーといった詳細を監視し、定期的に動作状況をチェックするのはAzure Machine Learningサービスの役目となる。
Smith氏は「実際にメンテナンスの間隔を調整でき、必要な作業量を知ることができる。エレベータの使用状況や環境、天候、ビルに関する情報から次回の訪問時に必要な作業を判断できるのだ」と語っている。
「かごにかかっている荷重と、モーターを流れる電流の量が把握できると考えてほしい。もしも同じ荷重がかかっているにもかかわらず、モーター電流が過去のデータよりも大きくなっているのであれば、摩擦が増加していることになる。これは、ベアリングの摩耗などによって引き起こされる状況だと判断できる」(Smith氏)
Smith氏は「マシンラーニング(機械学習)を活用すれば、『次回のメンテナンス時には、以下の作業を実施する必要がある』という作業項目表をエンジニアに渡せるようになる」と語っている。

Smith氏は「マシンラーニング(機械学習)を活用すれば、『次回のメンテナンス時には、以下の作業を実施する必要がある』という作業項目表をエンジニアに渡せるようになる」と語っている。
提供:ThyssenKrupp
それに加えて、点検のタイミングや内容を決定するためにAzure Machine Learningサービスが使用するルールは、エンジニアからのフィードバックに基づいて自動的にアップデートされる。例えば、あるエレベータのドアは1万回の開閉ごとに点検するというスケジュールが設定されていたとしても、過去の実績から特定のドアについては5000回の開閉ごとに点検する必要があると判断できたのであれば、そのルールは変更されるわけだ。
Smith氏は、「ルール集は各エレベータで同じかもしれないが、いつ特定の作業を実施する必要があるのかという条件は異なる可能性がある」と述べるとともに、このシステムはビルが建っている環境から学んだ結果も折り込むようになると付け加えた。
「例えば、厳しい環境に設置されているエレベータもある。ドバイで5年過ごした経験を述べると、そこではあらゆる部分に砂が入り込むという問題があった。このような環境では、極めて清潔な環境に比べると高頻度のメンテナンスが必要となるだろう」(Smith氏)