このように、デジタリゼーションに伴って小売業界と消費者は着実に変化しつつあるが、実店舗の重要性が薄れていくわけではない。アクセンチュアの調査では「デジタリゼーションへの期待値が高まるとともに、将来的に実店舗での購買を増やしていく」と答えた消費者が、2012年から2013年にかけて10%から14%まで上昇していることが確認されている。重要なのは実店舗とデジタルチャネルを有機的に連携させたサービスの実現である。
一方で、次世代チャネルと既存チャネル間におけるサービスの統合や連携に対し、満足していない消費者の割合は多い。不満を抱いている消費者は日本では56%にも上っており、先進国と途上国含めた調査対象国の中で最も高い数値となっている。非常に満足していると答えた消費者の割合も2%と、同様に最下位だった。
さらに気をつけるべきは、サービスや体験に不満があった場合でも、それを周囲の知人に伝えたり、SNSやミニブログなどに投稿したりする消費者の割合が、日本は調査対象国の中で最も低かった。企業としては消費者からフィードバックを得ることなく、無言で立ち去られてしまうのだ。企業はデジタリゼーションの重要性を認識しづらい状況にあるともいえ、ノウハウも蓄積しづらくなる。安穏としていると消費客は新たな先進企業を選択し、消費先をスイッチしてしまう。
ここまでデジタリゼーションが引き起こす小売業の競争の激化と消費者の変化、変革の必要性について見てきた。次回からは、デジタリゼーションの波に乗って生き残っていくために、小売企業にはどのような変革が必要となるのか、その方向性について見ていきたい。
- アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部 シニア・マネジャー 江川恭太
- 2006年アクセンチュア株式会社入社。戦略コンサルティング本部に所属し、小売業、消費財メーカーなど製造・流通業のクライアントに対し、事業戦略、新規事業戦略、営業改革、SCM改革を中心としたコンサルティングに従事。