最近、保険のイノベーションと言えば、ビッグデータと関連付けて議論されることが多い。例えば、センサ技術とビッグデータ分析を活用した新しい保険サービスが話題だ。車の走行状況を通信機器を通じて直接車から取得し、走行距離や運転状況に応じて保険料金を割り引いたりする。
しかし、今、ビッグデータに頼らずに、むしろアナログとも言える人と人の信頼関係に基づいて、保険料を大幅に節約できるサービスが広がりつつある。
信頼関係をベースとしたP2Pインシュランス
2010年にドイツで設立されたFriendsuranceという保険サービスのベンチャーがある。この会社の保険サービスの特徴は、加入者同士がグループを形成するところにある。
例えば家族、あるいは職場の仲間同士でもいい。参加者が払う保険料金の一部はプールされ、小額の保険請求があった場合はその中から支払われ、それを超える分についてのみ外部の保険会社から支払われることとなる。
1年間に保険請求がなければ、翌年の保険料は大幅にディスカウントされる。Friendsuranceによれば、10人のグループの場合、最大で50%のディスカウントが適用されるという。個人間で支援し合うことから、このタイプのサービスをP2Pインシュランスと呼んだりもする。
なぜそんなことが実現できるのか。Friendsuranceによると、グループのメンバーからの保険請求の実績によって翌年の保険料が決まるが故に、そもそも加入者がリスクある行動を慎むようになる。当然、不正請求もなくなる。小額請求も参加者がプールした資金から支払われるので、保険会社への請求は削減される。また、ソーシャルを基本とするので、マーケティング費用を掛ける必要がない。
Friendsuranceでは、加入者の実に90%以上が保険料のディスカウントを受けることができているという。また、同様のビジネスモデルを志向する保険サービスが2014年以降、イギリス、ニュージーランド、フランスでも立ち上がっており、P2Pインシュランスは広がりをみせつつある。
シェアリングエコノミー時代の保険
このFriendsuranceのP2Pインシュランスは、シェアリングエコノミーを体現するサービスと言えるだろう。第一に、加入者によって構成されるソーシャルネットワークがベースとなっていること、第二に、加入者間の信頼関係が加入者のメリットの源泉であること、そして第三に、それを担保するためのピアプレッシャーが存在することである。
これは、Airbnbのようなシェアリングエコノミー系のサービスに共通して言えることである。
このような、ソーシャルをベースとしたサービスの特徴は、1:NではなくN:Mでサービスが提供され、ビジネスの主体はプラットフォームの運営に徹するところにある。ただし、このP2P保険サービスの場合、メンバー間でカバーできない保険請求をサポートする保険会社が存在することが前提となっている。
金融領域のイノベーションが最近世間を騒がしているが、P2Pのプラットフォームと既存の金融サービスが補完し合うようなビジネスモデル、これもその目指すべき実現形の一つだろう。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。