山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

情報漏えい対策で、スマホの眼(カメラ)を抜く職人たち

山谷剛史

2015-05-12 06:00

 中国の多くの中小企業では、ちゃんと仕事さえすれば、パソコンやスマートフォンで何してもいいし、会社のパソコンにUSB機器を挿してもいいという緩いルールの会社が多い。一方でiPhoneなどの最新機器を量産する富士康(フォックスコン)をはじめ、情報を漏らさぬよう徹底する会社も一部ながらある。国家公務員もまたiPhone禁止が通達され厳しい。

 カメラなしの携帯電話やスマートフォンなら持ち込んでもよいという企業もある。これにフォーカスしたい。

 カメラなしの携帯電話やスマートフォンというと、世界でメジャーなところでは、ストレート型のフィーチャーフォン「Nokia 207」や、「BlackBerry Bold 9930」くらいしかない。世界の工場たる中国の製品においても、フィーチャーフォンならカメラなしもあるが、Android搭載のスマートフォンともなると確認できない。出せばニッチなニーズに応えられそうなものだが、どこも出していないようだ。

 カメラなしのスマートフォンが必要とされているが、ない。今さらフィーチャーフォンに戻るというのは、SNSもオンラインショッピングもパソコンからスマートフォンに移行している中、自ら流行から置き去りになるというわけにもいかない。

 中国メーカーが作らなくても、なんとかしてしまうのが中国人のタフなところ。スマートフォン販売店が密集する地域や、ショッピングモールには、スマートフォンの修理屋があり、カメラユニットを取り除く依頼をすれば、個人の技量により仕上がりに差はつくものの、スマートフォンのカメラユニットを抜いてくれる。またオンラインショッピングサイトの淘宝網(Taobao)では、カメラユニットを抜くサービスのほか、カメラユニットを抜いた、小米(Xiaomi)や華為(Huawei)や聯想(Lenovo)や酷派(Coolpad)などの人気スマホを販売するショップが登場。「戴くのは工賃だけ」と激安販売をアピールするが、カメラユニットを抜くことで、修理用部品も獲得でき、ショップにとっては一石二鳥だ。

 修理のプロフェッショナルになるのは難しいことではない。パソコンやデジカメの修理用のマニュアルもあるし、各都市には修理のプロになるための専門学校もある。スマホ全盛期の今、スマホを落としカメラのレンズが割れたり、カメラユニットが壊れたりといった理由で、カメラユニットの交換依頼がよくあり、修理屋にとって難しいことではない。

カメラのないスマートフォン「無撮影頭智能手机」の販売ショップ
カメラのないスマートフォン「無撮影頭智能手机」の販売ショップ

 さて、なぜカメラ撮影機能付きのスマートフォンを持ち込むのを嫌がるオフィスがあるのだろうか。中国でもスマートフォンを監視カメラ化するアプリが増えてきたからか。スマートフォンのカメラ機能を規制したところで、3Gや4Gに繋がったスマートフォンなら、カメラを使わずとも、SNSの微博や微信を利用して、情報を漏えいすることは容易ではないのか。

 こういう説が有力だ。はじめにも書いたが、電子機器の社内への持ち込みが自由なオフィスは多い。スマートフォンも当初は自由だった。だがスマートフォンのカメラ機能の向上で微信や微博上に画像をアップする人々を見るようになった。さらに美顔アプリの充実により、オフィス内外問わず自分撮りをする若い社員(参考記事:自己愛強い中国人女性の自分撮り--自分磨きも中国バブル!?)をよく見るようになった。

 社員はオフィスのパソコンにスマートフォンを接続して、撮った写真を大量にアップロードしていくが、たまにおっちょこちょいな社員が、意図せず会社のファイルを一緒にアップロードし、情報が漏えいしてしまうケースがあるのだそうだ。そのために(社用PCのUSBコネクタ使用は仕方ないにしても)スマートフォンのカメラ機能だけは勘弁という会社が少なくないのだとか。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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