クラウドストレージサービス「Box」を提供するBoxが1月にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した。上場以前から大型の新規株式公開(IPO)になると見られていたが、取引初日の終値は公募価格を66%上回る23.23ドルとなった。
クラウドストレージは、Boxに限らずさまざまなベンダーから提供されており、賑やかな市場となっている。日本法人ボックスジャパン代表取締役社長の古市克典氏は同社について「競合とは大きく異なる」と語る。
17カ国30万人が活用
ボックスジャパンは2013年8月に米本社の100%子会社として設立。なお、日本企業である三井物産、伊藤忠、マクニカなどが米本社に出資している。こうしたことから外資系にありがちな「調子が悪くなったから、即撤退することはない。日本に根を下ろしている」と古市氏は立ち位置を表現している。
ビジネスの基本はパートナー経由での間接販売であり、三井情報、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)、マクニカネットワークスが第1次代理店として展開している。パートナーはこれまでに20社となっているが、販売網は拡大させているところだ。
Boxのユーザー組織数は4万5000以上、エンドユーザーは3400万人以上となっている。古市氏が競合と大きく異なるとしているのが「数万の規模で全社導入されている」ことだ。米General Electric(GE)は17カ国30万人、製薬大手のEli Lillyで3万5000人、消費財メーカーのProcter & Gamble(P&G)で4万5000人となっている。製薬大手のAstraZenecaも100カ国以上5万1000人の全従業員が活用することを1月に発表している。
日本のユーザー企業はプラントメーカーの日揮や精密機械のコニカミノルタ、新日本空調、シヤチハタ、ハウス食品。小売業ではセブン-イレブン・ジャパンとファミリーマート。ボックスジャパンが“メディア&エンタテインメント(M&E)”と呼ぶ業界ではDeNA、フジテレビ、グリー、セガなどが活用している。ここに挙げたのは社名を公表してもいいという企業だけだ。
コラボレーションにニーズ高まる
Boxでのファイル共有機能は、例えば「Adobe Illustrator」などの特殊なアプリケーションで作ったファイルであっても、タブレット上でも閲覧でき、簡単なコメントを添えることができる。
ボックスジャパン 代表取締役社長 古市克典氏
「日本企業でも経営層や幹部にタブレットが配布されたが、実際に使われているのはメールとスケジュールぐらい。メールとスケジュールであればスマートフォンの方が使いやすい。タブレットの活用を進めたいという日本企業のニーズをくみ取れる」(古市氏)
Boxの発想の原点は協働作業(コラボレーション)と説明する古市氏は、競合との大きな違いをこう語る。
「類似サービスは、個人がどこでも仕事できるというメリットを打ち出している。だが、業務で必要なファイルは、会社のものであって個人のものではない。仕事で使われるファイルは共有した方がいい。共有してこそ価値がある」
ファイルを共有することによるコラボレーションへの企業ニーズが高まっていると説明する。
以前の日本企業であれば、あうんの呼吸で意思疎通が取れ、業務もそれなりにスムーズに運んでいた。だが、現在はさまざまな人々が企業内で働くようになっており、中高年層がかつて体験したようなあうんの呼吸が通じなくなっている。日本企業の「海外企業との合併買収が拡大することで、言葉も文化も異なる個人と一緒に働くことになる」(古市氏)
個人の多様性が拡大することは企業にとってプラスとなり得る反面、以前のような気軽な意思疎通は難しくなりつつある。ファイルを共有する仕組みを整えることで、情報を共有する体制が必要になっている。コラボレーションに対するニーズ、Boxへのニーズが高まっているのは、こうした状況を反映しているとも言える。
クラウドストレージでのファイル共有といえば、心配になるのがセキュリティだ。海外に進出する日本企業は今後も拡大することは誰の目にも明らかだが、製品の設計図面や意思決定のための議事録など社外に流出させてはいけないデータはさまざまだ。どうやって守るべきかが常に問われている。