日本マイクロソフトが先ごろ、ベンチャー企業のアイキューブドシステムズとの提携を発表した。この動きは、マイクロソフトのパートナー戦略の変化を象徴するものだ。いったい何が変わったのか。
パートナーエコシステムの拡充に注力
両社の提携は、法人向けモバイルデバイス管理(MDM)分野で国内最大手のサービスプロバイダーであるアイキューブドシステムズが、MDMサービスのWindows対応を強化するとともに、そのクラウド基盤をこれまで利用していたAmazon Web Srevices(AWS)からMicrosoft Azureへ全面移行し、モバイルファースト、クラウドファーストのユーザーニーズに協業して対応していこうというものだ。
10月2日に行われた発表会見には、米Microsoftインターナショナル プレジデントのJean-Philippe Courtois(ジャンフィリップ・クルトワ)氏、日本マイクロソフト代表執行役社長の平野拓也氏、アイキューブドシステムズ代表取締役社長の佐々木勉氏が登壇。とくにこの提携へのマイクロソフトの力の入れようがうかがえた。
左から、米Microsoftインターナショナル プレジデントのJean-Philippe Courtois氏、日本マイクロソフト代表執行役社長の平野拓也氏、アイキューブドシステムズ代表取締役社長の佐々木勉氏
会見で説明があった提携の詳しい内容については関連記事を参照いただくとして、ここでは今回の提携に象徴されるマイクロソフトのパートナー戦略の変化に注目したい。まずはパートナー戦略に関するCourtois氏と平野氏の会見での発言を紹介しておこう。
「モバイルファースト、クラウドファーストの時代を迎え、マイクロソフトにとってはパートナーエコシステムの拡充がますます重要だと考えている。その意味で、MDM分野で大きな影響力を持つアイキューブドシステムズとの今回の提携は、大きな弾みになる動きだ」(Courtois氏)
「マイクロソフトは今、これまで競合関係にあった企業とも幅広くパートナー連携を進めている。その理由は、そうすることでユーザーの利便性を一層高めることができるからだ。そのために、それぞれに得意分野を持つ多種多様な企業とのパートナーシップを今後もどんどん広げていきたい」(平野氏)
ピラミッド構造からエコシステムへ
両氏の発言から読み取れるのは、モバイルファースト、クラウドファーストの時代に向けて、マイクロソフトがユーザーの利便性向上を第一義に、企業規模などにかかわらず、それぞれに得意分野を持つ企業とのパートナーシップを強化していく姿勢を打ち出していることだ。今回のアイキューブドシステムズとの提携は、まさしくそうした同社のパートナーエコシステムに対する取り組みを象徴したものといえる。
これは、マイクロソフトのパートナー戦略の変化を象徴する動きとも見て取れる。というのは、同社はこれまで長年にわたってパートナービジネスを展開してきたが、その形態は同社を頂点としたピラミッド構造ともいえるものだった。それが今回の提携に見られるように、“持ちつ持たれつ”の関係に変わってきたように見受けられるからだ。いわば自然の生態系(エコシステム)に近づいてきたイメージである。
はたして、マイクロソフトのパートナー戦略は本当に変わったのか。だとすれば、何が変わったのか。会見後、日本マイクロソフト執行役常務ゼネラルビジネス担当の高橋明宏氏に聞いたところ、次のような答えが返ってきた。
日本マイクロソフト執行役常務ゼネラルビジネス担当の高橋明宏氏
「パートナー戦略は明らかに変わってきている。これまではPC市場で圧倒的なシェアを持つWindowsやOfficeといった製品を再販する形で、パートナーにたくさん売ってもらうことが中心だったが、クラウドおよびモバイルの時代になって、まさにユーザーの利便性を高めるためにパートナー連携を図るという取り組みに変わってきた」
さらにこう続けた。「かつてのマイクロソフトのパートナービジネスはピラミッド構造だったかもしれないが、時代が変わり、もはやそれではユーザーニーズに応えられなくなってきた。多種多様なニーズに応えるためには、多種多様なパートナーとのエコシステムをしっかりと構築していく必要がある。それはまさしく自然の生態系に近いものだ」
実は、ここ最近、かねてマイクロソフトとパートナーシップを組む複数の企業のトップから、「マイクロソフトは変わった」との声を相次いで聞いた。そのうちの1人は「エコシステムの意味を正確に捉えており、その変わりように驚いている」とまで言った。その変化は、高橋氏も語っていたが、米国本社CEOのSatya Nadella氏の強い意向によるところが大きいようだ。果たしてマイクロソフトがどこまで真のエコシステムに迫るか、注目しておきたい。