Amazon Web Services(AWS)の最高技術責任者(CTO)Werner Vogels氏は同社の年次イベント「re:Invent 2015」で、クラウドシステムに携わるアーキテクトであれば知っておくべき一連の法則を挙げるとともに、それらの法則と同社の新しいツールやサービスとの関係について語った。
AWSのIoTプラットフォームを紹介するWerner Vogels氏
提供:Conner Forrest/TechRepublic
「今やクラウドは、新しい常識になった」
同イベントの基調講演でVogels氏は、企業におけるアプリケーション開発の状況についてこのように語った。同氏によると、ハードウェアに由来する制約が徐々に少なくなってきた結果、今では好きなようにアプリケーションを構築できる時代になっているという。
しかし、クラウド中心の世界に移行していくと、開発時のベストプラクティスを洗い出すこと自体が難しくなってくる。Vogels氏は基調講演で、クラウドシステムに携わるすべてのアーキテクトが知っておくべき法則を6つ挙げるとともに、それらの法則に絡めてAWSの新しいツールや機能を説明した。本記事ではその概要を紹介する。
#1:ルーカス批判
--過去のデータから見出せる関係だけで、変化のもたらす影響を予測しようとするのは現実的ではない。(ロバート・ルーカス、経済学者)
テクノロジを利用する際、過去には蓄積されたデータが重視されていたものの、現在ではリアルタイムで発生するストリームデータが重視されるようになってきている。そして将来的には機械学習や予測分析が重視されるようになるだろう。しかしVogels氏によると、ストリームデータにはまだまだ難しい問題が残されているという。
Vogels氏は、同社が「Amazon Kinesis Analytics」という新サービスでこの問題に取り組んでいくと発表した。Amazon Kinesis Analyticsは、リアルタイムで発生するストリームデータにタイムスタンプを付与することで、さまざまな洞察を容易にできるようにするものだ。
#2:ゴールの法則
--きちんと動作する複雑なシステムというものはすべて、きちんと動作する簡単なシステムを発展させた末に出来上がっている。最初から複雑な設計を採用するとシステムは動作せず、動作するように手直しすることもできない。まずはきちんと動作する簡単なシステムから始めなければならない。(ジョン・ゴール、批評家)
Vogels氏によると、複雑なシステムを開発者が構築できるよう、その土台となる単純なシステムを提供して支援することがAWSの目標なのだという。
このためAWSは、「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)」に「X1」という新たなインスタンスタイプを追加して、開発者による複雑なシステムの構築をサポートする。X1は2テラバイトのメモリと100コアを超えるプロセッサをサポートし、2016年中に提供が開始される予定だ。また同社は、「t2.nano」というインスタンスの追加も発表した。これはバースト可能な処理能力を有する「T2」インスタンスのなかで、最小構成となるコンピュートインスタンスだ。
アプリケーション開発における最大級のトレンドは、コンテナと言って間違いないだろう。そしてAWSは、「Amazon EC2 Container Registry(ECR)」によってこのトレンドに対応する。Amazon ECRはコンテナのイメージを取り扱える完全マネージド型のセキュアなリポジトリであり、開発者はこのリポジトリを通じてコンテナを起動できるようになる。
また「AWS Lambda」には、仮想プライベートクラウド(VPC)のサポートや実行時間の増加のほか、スケジュール実行機能、リトライロジックのカスタム化、Pythonのサポートといった、さまざまな新機能が追加された。