グレーゾーンでの“ベトナム流のお付き合い”に要注意
ここで、ベトナム流のお付き合いをもう少し詳しく紹介しておきましょう。
前述のように、ベトナムにおいては法整備が未整備の場合も少なくありません。例えば、最上位の法律が施行されていても、下位の施行令や規則といった法令が未整備であるというケースもあります。そのため、許認可の際には、このようなグレーゾーンが許認可の担当官の裁量により判断されてしまい、結果として望んでいた許認可が下りないケースも少なくありません。
投資ライセンスの変更申請書式の一部。日本での業務以上に、書類処理業務が多いように感じるベトナムでの日常業務。加えて、業務に関する法令改正も頻繁に発生するため、一度取得した許可を修正する必要も出てくるので、法令改正動向にも気を配らなければならない。外資系企業が活動しやすいような改正が行われることもあるが、疑義が生じる改正が行われることもあるため、地元の日本商工会での意見集約と当局への申し出といった、地道な活動も肝要。
ベトナム側にも正当な理由があるのだとは思いますが、日本国内のように行政手続法その他の法令があり、必要に応じた申請拒否処分の理由の説明が行政側にも義務付けられている環境とはまったく異なります。「書式はそろっているはずなのに……」「ベトナム人スタッフもおかしいと言っているのに……」と理由が分からないまま、不許可が繰り返されたり十分な許可を得られなかったりする場合には、このようなグレーゾーンを逆手に取りたくなる気持ちも分からないではありません。
「ウチであれば、当局の偉い人と友達だから、すぐに話を通してあげるよ。でも、少しお金がかかるけど大丈夫?」「ちょっと特別な方法ですけれど、○○という方法はどうですか?大丈夫です、みんなやっていますよ」という甘い囁きにも耳を傾けてしまいがちです。日本から派遣されてきた担当者の心情としては、「建築会社との打ち合わせも、社内規程の整備も、スタッフ採用の面接も、すべて一人で対応しなければならない状況なのに、一つでも仕事が切り出せるのであれば切り出したい」というのが本音でしょう。
しかし、「グレーゾーンを悪用する」「現地の協力会社などを経由した“強引な” “現地流といわれるような”やり方での仕事の段取り」は、避けた方が賢明です。「許認可を出してもらう」「いまこの仕事を処理する」という意味においては効率的なやり方かもしれませんが、事後に起こりうる事例について、現地の事情に精通している者と慎重に検討した後でどのように仕事を進めていくかを決めることが、ベトナムにおいても求められます。
「なんだ、そんなことを今さら」と思うかもしれませんが、外国にいるという気持ちの変化と焦りから、いつもと異なる判断をしないとも限りません。「郷に入っては郷に従え」という言葉もあるように、ベトナムで仕事をするためには変わらなければならないところも確かにあります。しかし、ベトナムという日本と異なった環境においても、「日本人が当たり前だと思っていることを、当たり前のように進めること」をけっして忘れてはなりません。
- 古川 浩規
- インフォクラスター
- 内閣府及び文部科学省で科学技術行政等に従事したのち、平成20年に株式会社インフォクラスター、平成22年にJapan Computer Software Co. Ltd.(ベトナム・ダナン市)を設立。情報セキュリティコンサルテーション、業務系システム構築、オフショア開発を手掛けるほか、日系企業のベトナム進出に際して情報システム構築や情報セキュリティ教育等を行っている。資格等:国立大学法人 電気通信大学 非常勤講師、日本セキュリティ・マネジメント学会 正会員、情報セキュリティアドミニストレータ、財団法人 日本・ベトナム文化交流協会 理事