IT部門に対する期待と果たすべき役割が変化するなか、IT部門のスタッフが具備すべきスキルも変化しています。企業では、適正なソーシング戦略も考慮しながら、自社で持つべきスキルを定義することが求められます。
IT部門の抱えるスキル課題
多くの大手企業のIT部門は、ビジネスニーズの絶え間ない変化と著しい技術革新の狭間で、日々の業務と膨大な課題に追われています。コスト削減とビジネスへの貢献を優先するがために、スタッフの適正な配置や長期的な人材育成が先送りとなる状況が数多く見られます。
企業はITの重要性を認識しており、IT部門長はITスタッフのスキルがいかに企業ITの成否を左右するかを知っているにもかかわらず、ITスタッフには明確なキャリアパスも提示されず、必要な教育・研修を受けるチャンスも与えられないという企業は少なくありません。
一方で、IT部門に対するコスト削減への強い要請、アウトソーシングの台頭、経営課題の複雑化、IT部門の役割の拡大など、さまざまな要因があいまって、IT部門の役割やスキル要件を見直す気運が高まっています。
スキル依存度/業務価値マトリクス
そこで「スキル依存度/業務価値 (S/V) マトリクス」という考え方を紹介します。これは、「人/スキル」という単純な人材管理を「人/業務/スキル/生み出す価値/業務のスキル依存度」というポートフォリオ・モデルに変更させるものです (図1)。
IT部門長は、S/VマトリクスにIT部門の担っている業務と現在の人員配置を記すことで、ビジネス上の課題を解決し、企業ITを支えるために必要なスキルが存在しているかどうかを判断できます。また、S/Vマトリクスを適切に利用すれば、新規人材採用モデルを評価・策定し、既存のスタッフとの関係を明確にすることができます。
したがって、IT部門内のスキルマップやキャリアパスが明確にモデル化され、ITスタッフの間で認知された雇用・育成の推進にも役立ちます。
図1.スキル依存度と業務価値マトリックス
S/Vマトリクスには、「業務価値」と「スキル依存度」の2つの軸があります。
業務価値とは、IT部門のスタッフが業務を遂行することで提供される成果のビジネス上の価値を意味します。一方、スキル依存度軸は、特定の職務を遂行する上で必要となる固有のスキルにどの程度依存しているかについてのIT部門の認識を表しています。
スキル依存度が低いと認識される場合は、その業務およびスキルは、外部から資源や能力を調達することで補完できる領域です。その場合、この領域に対する評価は、オペレーション面では効率性、財務面ではコストが重視されることとなるでしょう。一方、スキル依存度が高いと認識される場合は、IT部門は当該スキルの価値をこれまで高く見ていたことを意味します。
しかし、スキル依存度が高い業務がすべて重要な業務とは限りません。業務の標準化が進んでいないために属人的なプロセスとなっていたり、世間では主流でない技術を採用したために、外部調達が困難なことからやむを得ず依存しているケースもあるからです。