第10回では主にIT部門の社内マーケティングの手段としてIT白書の策定を紹介しましたが、今回は株主や投資家といった社外のステークホルダーに対してITの利活用や運営状況を積極的に情報発信するIT-IRについて考えてみます。
IT-IR推進の経緯とその目的
アベノミクス第2ステージとして2015年6月に発表された「日本再興戦略」改訂2015で重要と位置づけられている「未来投資による生産性革命の実現」では、第1ステージから「稼ぐ力」を高める企業行動として、攻めのコーポレートガバナンスの強化やイノベーションベンチャーの創出に着目しています。また、IoT、ビッグデータ、人工知能時代の到来を第四次産業革命と位置づけて新時代への挑戦を加速するとしています。
一方、第1ステージから「産業競争力会議」で成長戦略の具体化が進められていますが、その一環として、経済産業省と東京証券取引所が「攻めのIT経営銘柄」を創設し、2015年5月にその第1回目を発表しました。
さらに、新たな取り組みとして、各企業が投資家などに向けてIT活用に関する情報発信をする際の参考にすることを目指した「攻めのIT-IRガイドライン」の策定が進められ、同年12月に公表されました。ちなみにIR(Investor Relations)は、企業が株主や投資家に対し、財務状況など投資の判断に必要な情報を提供する活動全般を指します。
本ガイドラインは、企業の「攻めのIT経営」の姿勢をより客観的に投資家の視点から評価するために、各企業が投資家に向けてIT活用に関する情報発信をする際の参考となることを目指したものです。また、決算時に策定するIR情報(統合報告書、アニュアルレポート、ウェブサイトなど)の中に、IT経営の内容を盛り込む事を推奨しています。
したがって、株主や投資家といった社外のステークホルダーに対して自社のITの利活用の状況や投資姿勢を積極的に情報発信することを通じて、経営者を含む会社全体における「攻めのIT経営」への認識を高めようとする意図が込められていると考えられます。
「攻めのIT-IRガイドライン」の概要
経済産業省が発表した「攻めのIT-IRガイドライン」についてその概要を見てみましょう。同ガイドラインは5つの章で構成されており、章ごとに開示の狙いと得られるであろう効果が示され、それぞれ2つから3つの記載項目が、説明や記載例とともに記述されています。
「攻めのIT-IRガイドライン」の構成
(出典:経済産業省「攻めのIT-IRガイドライン」を基にITRが作成)
各章における記載項目は、「攻めのIT経営」を実現する上で必要な事項であり、ここに挙げられたような計画、組織体制、プロセスなどを確立していることが重要であることは言うまでもありません。
しかし、IT-IRで求められるのは、そのような状況が整備されているということだけでなく、その事実が外部に対して情報発信されているかという点であり、ガイドラインでは、これらの状況を統合報告書や企業ウェブサイトなどで開示することを求めています。有効な戦略を持ち、積極的に施策を遂行していたとしても、その事実を開示しなければ株主や投資家には正しく伝わらないということを意味します。
したがって、各章の開示の狙いと効果を確認し、その意図に合致した情報と開示の方法を検討することが求められます。