山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

報道の自由ランキングで最下位グループの中国、その反応

山谷剛史

2016-04-26 06:00

 国境なき記者団が毎年発表する報道の自由ランキング。先週発表された2016年度版では日本が11ランクも後退して72位となり、日本国内ではメディア各社がこぞって報じた。しかし、最後から数えて5番目の176位になった中国では、自国の低評価について報じるメディアはほぼない(ゼロではない)。にも関わらず、日本の転落ぶりはニュースにしているのだ。

 中国語で国境なき記者団は「無国界記者」というが、この単語で検索サイト「百度(Baidu)」で検索すると、「法律法規政策によって、一部の検索結果は表示されません」という注意書きと、日本や韓国のランキング後退が報じられている検索結果ばかりが並ぶ。中国はどうなのかということを意識しない限り、日本と韓国、とりわけ日本では報道の自由がなくなった、という情報しか入ってこない。

 中国国内で報じているのは、政府系準機関紙の環球日報というメディア。環球日報は、中国のメディアの中でもとりわけ政府擁護が強い記事、時に外国に対しては勇み足ともいえる過激な記事を掲載することで知られている。そんな環球日報は報道の自由ランキングについて以下のように報じている。

 「国境なき記者団のバックには西側諸国の政府や組織があり、また西側諸国でも国境なき記者団を批判する声がある。176位の中国や、175位のベトナムより上のランクに、失敗国家は多数リストされている。そんな国に中国人は報道の自由を求めて移住したいだろうか。韓国や香港の上にも貧しい国々がある。これらの国では冷戦後20数年の間、言論の自由を受け入れてきたが、各国の複雑な社会経済状況から、言論の自由を訴える西側の国々のようにはなっていない。当然北欧諸国が上位を占める。西側勢力は中国を同じ価値観にさせようとしているが、社会や経済の発展と、彼らのいう報道の自由はリンクしない。もっとも、中国の情報公開制度はいまだ発展途上であり、我々の力で努力しなければいけない」

 また百度で検索できる過去の国境なき記者団のニュースを見ると、「国境なき記者団は反中組織の元凶」「国境なき記者団は偏見で政治を見て行き過ぎた行動をとっている」「中国が監禁したジャーナリストが世界最多というのは西側諸国のデマ」「国境なき記者団が北京オリンピックの聖火リレーを台無しにした。その恨みは忘れない」などという記事がある。また「中国では政府叩きではなく、建設的なニュースが重要」と報じている。一報中国からは普通には利用できないGoogleで、同じように検索すると、中央政府の不祥事や悪評を積極的に取り上げる外国の華人メディアが、言論の自由のないことを報じているが、個人的な感想をいえば、中国政府擁護のメディアと、現状の中国政府を目の敵にするメディアしかなく、どちらも極端という印象だ。

 ではネットユーザーの書き込みはどうか。

 環球日報のサイト「環球網」で残ったコメントでは、「アメリカ、日本、イギリスなどの西側国家でも言論の自由は笑い話になってる。ロシアや中国を叩く政治道具として使っている」「西方の価値観で合わない」などというコメントが並ぶ。もちろんこれは「五毛党」とも揶揄される、言論誘導を仕事とする人々による多くの書き込みと、言論の自由を望む書き込みを消去した可能性は否めないが、特に政治的ポリシーのないネットユーザーが、この記事本文と、その読者感想を読めば、「中国には中国のやり方があり、かつ西側諸国は中国を陥れようとしている」と刷り込まれるのではないだろうか。

 幸いミニブログの微博(Weibo)においては、また微博のオフィシャルサイトによるつぶやき検索が可能なほか、書き込まれて残っているつぶやきと、消されたつぶやきの両方が、「自由微博」というサイトでチェックできる。例えば隠蔽された事件や、全人代での検閲強化に関するつぶやきが消されたことがわかる。が、オフィシャルな微博においては、多数の不要論に加え、少数の言論の自由が必要論が残っていた。また「中国は5位だ。すごい!」と皮肉のようなコメントも。

 ただ多数派は「読んでいない、知らない」か、「読んでいても感想を書き込まない。話題に触れない。ないしは関心がない」人々だろう。Google Trendsのような「百度指数」で検索すると、過去数年で最もこの話題についての検索数が少なくなっている。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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