日本マイクロソフト 代表取締役社長 平野拓也氏
7月から始まった新年度に向け、米Microsoftが掲げたテーマは「デジタル変革」。プロダクト中心の考え方からの変化を今後も継続することになる。2016年7月から始まった今期の日本マイクロソフトの方向性について、平野拓也社長に聞いた。
2017年度における重点分野について、日本マイクロソフトとして、顧客のデジタル変革推進、クラウド利用率増加、データカルチャーの編成とデータプラットフォームの拡大、法人分野での「Windows 10」の普及、最新デバイスによる新たなエクスペリエンスの実施、クラウド時代のパートナーシップの6つを提示している。
このうち、クラウド利用率増加では「Microsoft Azure」「Office 365」「Dynamics」が、データカルチャーの編成とデータプラットフォームの拡大では「SQL Server」が中心的な製品となってくる。
デジタル変革という新たなテーマが出てきました。「Microsoft Worldwide Partner Conference2016」の基調講演にGEのCEO(最高経営責任者)であるJeff Immelt氏が登場してくるあたりは象徴的だと思いますが、そのあたりのどのように考えていますか。
平野 5年前のわれわれの営業スタイルでは通用しないと思います。そのために営業の報奨制度も変えてきました。製品だけでは何も変わらないので、社員の教育、ポリシー、シナリオの出し方、パートナーとの連携の在り方、すべてを変えてきました。
1社がクラウドでさまざまな製品を出していくのはいいことですが、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)との連携というのが、クラウドビジネスを推進する上で、国内外を見ても重要になってきています。
以前なら、マイクロソフト対どこという絵を披露するような感覚でしたが、もう私にはそれはありません。
Cogsの領域
パートナーシップ、連携モデルをつくるのが重要になります。マイクロソフトとパートナーだけでなく、さらにパートナー網を広げたり、顧客をパートナーとしてい位置付けるなどして「Sell with~」をやっていく必要があります。
そうした連携をどう作れるのかが重要で、顧客の窓口も、IT企業はもちろんですが、IT予算を超えた「Cogs」の部分を取りに行くための事業が増えてきます。話をする相手もどんどん変わっていくと考えています。関西電力グループとの取り組みや、トヨタ自動車とのジョイントベンチャーを実施したりしており、これまでとは異なる協業が出てくると思います。
報奨制度の変更というのは?
従来は、ソフトウェアライセンス数に応じて報奨を決めていましたが、クラウド時代にあわせて、売っただけではなく、顧客が使わないとボーナスが出ないというやり方に変えました。
そのためには顧客の業務を理解する必要が出てきます。ビジネスソリューションとは違ってきますが、自分が出した結果、組織外の成功に貢献できたか、自分の成功のために他の人に助けを求めたか、この3つの方針を打ち出しています。社内の人々、パートナー企業をいかに巻き込んでいるかを重視するもので、社内文化の1つの象徴として位置付けています。
「助けを求めたか」などはどのように測るものなのでしょうか?
Windowsの箱売りは1人でも2人でもできました。しかし、クラウドソリューションでは、1プロジェクトを運営するのに30~40人がかかわってきます。その中で、1人でヒーローになろうとするとなかなか成功できません。自分のところにかかわっていなくても、どれだけアイデアや提案を出せるのかという意味です。
案件ごとのこともあれば、社内の仮想チームでやることもあります。
それを実現するためのプロダクトをあえて挙げるとすると、(30~40人のプロジェクトになりやすいという意味で)Dynamicsなどでしょうか。
それだけではありません。いろいろなものが当てはまります。セキュリティでも、Windows 10、Azure、「Enterprise Mobility Suite」などさまざまな製品がかかわってきます。従来ですと、製品チームとして3つに分かれてそれぞれ縦型にアプローチしていたのですが、いまは製品チームをまたいで展開する必要があります。
(CEOの)Satya Nadellaが最初にやったのは、製品チームの垣根を崩すところでした。その考えに沿うと、営業の現場の垣根をさらに低くして、業務を遂行しやすい環境をつくるのが私の仕事です。
Nadellaさんが就任して、ある程度の時間が過ぎました。外からすると、非常に変化しているように見えます。平野さんの目にはどう映っていますか?
Inclusive(包括的)とDynamic(動的)という言葉が浮かびます。Inclusiveの意図は、パートナー戦略だとか、社内における巻き込みという話をした通り、違いを認めてどれだけ一緒にできるかにあります。オープンソースもiOSも認めるという点もそこにたどりつきます。Dynamicはかくあるべきという“既定路線”を排除して動いていくという意味です。
COO(最高執行責任者)だったKevin Turnerさんが抜けて、また1つ世代が変わったということも言えますか?
それはありますね。KT(Kevin Turner)と私は入社が1週間違いでした。彼が11年前に入社して会社に持ち込んだ「規律」(discipline)はすばらしいものがあったと思います。
私が入社して最初に思ったのは、これだけの大企業なのに、なんてゆるいんだということです。四半期ごとの説明責任などについて、結構「おおらかな」会社だと思いました。体は大人なのに考え方は高校生だと。そこに彼が秩序をもたらした貢献というのは大きいと思います。
ただ、同じCOOが同じやり方で11年やっていてSatyaが変革しようというときに、ある意味でビジネス、マネジメントのやり方がクラシック(古風)だったことは確かにありました。
その中でKTがいなくなるというのは、よりモダンになり、もっとInclusive、Dynamicな組織を追求していくことを意味しています。今後第何章になるかは分かりませんが、「Satyaism」として彼の考え方がMicrosoftの戦略にもっと反映されていくでしょう。
昨年、2016年度にAWSを抜くという社内的な試算があるという話がありました。実際のところはどうでしょうか。
AWSもがんばっていますからね。成長率という意味では、われわれは後発ということもあり伸びていますが、ビジネスボリュームでも追いつけるようにわれわれも努力する必要があります。
エンタープライズ領域でのAWSとの競争について、どのような勝算持っていますか?
エンタープライズ領域では、顔が見える、会話ができるという点は評価してもらっています。実際、過去12カ月に焦点を当てたのは、Azureのボリュームを販売するということではなく、まずは使ってもらうという点です。エンタープライズとして「使用率」では、世界で日本がトップになりました。トップ100社の8割がなんらかの形で使っているという意味です。今後はどれだけ使い倒してもらうかにかかっています。
そこでの、セカンドシナリオ、サードシナリオというところで、デジタル変革のテーマの下で、ISVのソリューションやパートナー資産を掛け合わせたりといったことに取り組むことになります。
エンタープライズ企業にとって肝になるのがデータベースだと考えると、(ハイブリッドクラウドを見据えた時に)SQL Serverに注力している理由もそのあたりになるでしょうか。
はい、そうです。クラウド製品を打ち出す中で、唯一SQL Serverにフォーカスを当てているのも、そのあたりにかかわってきます。Oracleも意識しながら、そうした領域を押さえることで、エンタープライズ領域での信頼性をさらに高められると考えています。もちろん、クラウドでのSQL Serverもありますので、ハイブリッドクラウドの場面で差をつけられます。