シンギュラリティという問題
人工知能のビジネス活用は夢物語ではなく、まさに本格活用の時代に入った。しかし今後予想されるロボットと人工知能の融合においては、恐怖を唱える者も出てきている。2045年ごろに来るであろうと予測されているシンギュラリティ(技術的特異点)は、一体人類に何をもたらすのであろうか。
30年後にはCPUのトランジスタ数は3000兆個(人間の脳の10万倍)にもなり、メモリ容量は32PBに、通信速度は3Pbpsにもなるであろうと言われている。
これらの環境の中で動作する30年後の人工知能やロボットは、一体どういう姿をしているのであろうか。どういう幸福を我々人類に与えてくれるのであろうか。それは幸福なのであろうか。それとも不幸なのか。Boston Dynamicsが開発した最新ロボットの映像を初めて見た時に私が感じたのは大きな感動とそして恐怖であった。(参考映像)
このようなロボットが優秀な人工知能を搭載し、さらには自己防衛機能とも連携し、人間よりも数倍の速さで走り、人間の数倍の腕力などを持って武器を手にして人間を倒しに来る日がないとはっきりと断言できるであろうか。
さて、今から30年後の世界がどうなるかの前に10年後のライフスタイルやビジネススタイルはロボットや人工知能によってどう変化しているのかも考察してみたい。恐らく家庭内においては家電IoTが当たり前の世界になっており、さらにその家電IoTの中心にいるのはPepperのようなロボットだと予想している。
エアコン、洗濯機、テレビ、電子レンジなどの各種家電が喋る機能、考える機能は必要ないと考えている。これらの家電がネットワークでロボットとつながり、さらにその先のクラウド上の人工知能とつながってさまざまな機能を実現する。家族が話しかけるのはロボットだけでいい。家電の状況を話しかけるのはロボットだけでいい。家電がしゃべる必要はない。
洗濯機や電子レンジがどういう状態になっているのか、エアコンの温度設定をどうしたいのか、そんな機械とのコミュニケーションは全てロボットが仲介する。家族とロボットのコミュニケーションによって、家庭内の全ての家電が動作する。そんなライフスタイルが10年以内には実現することだろう。
人類は過去において多くの便利な道具を作り、使い方を学び、改良し、そしてそれによって生活を豊かにしてきた。
ロボットや人工知能の進化は現在の人間が行っている多くの仕事を奪ってしまうかもしれないという説も多く聞かれる。
しかし、それは遅かれ早かれいずれ来ることであり、それに向けて準備をしておけばいいだけのことである。またその時代時代において新たなビジネスも生まれて来る。モバイルクラウドやロボット、人工知能が人類の生活をより豊かにする新たな仕事を生み出してくれるはずである。そうなることを願ってやまない。
まとめ NCA 工学博士 津田邦和氏
無線有線の通信とコンピュータの融合、すなわち「ネットコンピューティング≒クラウド」は、IoT、AI、ロボット、VR/ARなどを発展させ、新しい付加価値やビジネスモデルを創出しつつあり、人々の生活スタイルや産業にとってさらに深く根差し、発展を止めることはないと考えられる。
筆者はこれらのITイノベーションはハードウエア、アルゴリズム、プロトコルというITの基礎技術の進展をベースに、その上で多くの工夫を搭載し、発展するものと考えている。
つい先日クレイが「1700コア」を搭載したハードウエアを発売した。スーパーコンピュータのダウンサイジングとも言うべきだろうか。また「2000コア」のCPUが実験段階を脱しようとしているという情報もある。「メニーコア」時代はそこまできている。さらには、既にスペクトル多重による超大容量光通信は実用段階に入っている。すでに多くの基礎技術が進展してきている。これらによって、IoT、AI、ロボット、VR/ARは、さらに高性能、低コスト、超小型になることは容易に想像できる。これからの10年はこれまでのクラウドの発展をさらに活用して、思いもよらぬ目覚ましい進化をすることだろう。
このような中でNCAでは、当初のもくろみに沿って「日本のシリコンバレー」であり続け、かつ「ビジネスアイデアの創造の場、そのためのハイレベルで自由な議論の場」として、多くの成果を残してきたが、今後もさらに発展、展開する。
残念ながら日本での民間の集まり、団体には、新しいアイデアを創造的に(ガツガツと)議論するような雰囲気が見られない中で、ユニークな場としてあり続けたいと思うところである。
これまで同様にNCAに参加する研究者・技術者・経営者・プロジェクト推進者・エバンジェリスト・SEの皆さんには、ワクワク感を抱きながら取り組んで頂き、日本の成長力に貢献することを期待してやまない。

- 中山 五輪男(なかやま いわお)
- ソフトバンク株式会社、ソフトバンクロボティクス株式会社 首席エヴァンジェリスト
- 1964年長野県伊那市生まれ。法政大学工学部電気電子工学科卒業。日本DEC、日本SGI、EMCジャパンを経て2001年ソフトバンクに入社。現在はソフトバンク社およびソフトバンクロボティクス社の首席エヴァンジェリストとしてiPhone、iPad、Android、Surfaceなどのスマートデバイス、各種クラウドサービス、パーソナルロボットPepper、IBMの認知型コンピューターシステムIBM Watsonの4分野について、年間約300回の全国各地での講演活動を通じてビジネスユーザーへの訴求活動を実践している。iPhone関連の書籍の執筆活動や複数のTV番組出演でのiPhone訴求など、エヴァンジェリストとしての活動をしつつ、国内20以上の大学での特別講師も務めている。