「作らない社内システム」

「作らない社内システム」の必要--余計なコードを書かない考え方 - (page 2)

大石 良

2016-10-06 07:00

ものづくりは優位性を保てるか

 こうした危機に対して、私たちはどのように対処するべきでしょうか。

 例えば、日本のお家芸「ものづくり」分野では、新興国とは品質の差があるから大丈夫という人もいるかもしれません。ですが、日本人お得意の職人芸や持続的なカイゼンで得られた優れたものづくりノウハウも、IoTやAIといったITのパワーでひっくり返されてしまいそうです。

 GEではAWSを用いてものづくりに活かしていくIoT基盤「Predix」を構築し、140万の医療機器と2万8000基のジェットエンジンに1000万のセンサを取り付け、生産性の向上に貢献していると発表しています。

 また、先日もGoogleのデータセンターでAIが電源効率を40%削減した、という事例が報道されていました。Googleが世界で最高レベルのエンジニアを擁していることに異論を挟む人はいないと思いますが、こうした人々の知恵や創意、工夫をもってしても成し遂げられないイノベーションをAIが成し遂げてしまう、ということが本当に起きているわけです。

 こうした背景を理解せずに「ものづくり」など過去の栄光に浸り続けていると、人間では到底なしえないレベルの生産性向上をAIが実現してしまい、あっと言う間に優位性を奪われてしまうということもあり得ます。

つくらないITシステム

 こうした「起こることが分かっている危機」に対する解決策はあるのでしょうか。その一つが本稿のテーマである「つくらないITシステム」という考え方です。

 つくらないITとは、「クラウドなどの世の中にあるITの仕組みを組み合わせて使うことで、不必要なコードは書かず、つくらずにシステムの目的を達成する」ことをIT戦略の中核に据えるという考え方です。

 優れたクラウドサービスの組み合わせによってITインフラを実現していこうというコンセプトとも言えます。例えばサーバやストレージと言った基本的なリソースはAWSで、ファイル共有や外部コラボレーションにはオンラインストレージのBoxを、顧客管理にはSalesforce、ドキュメント作成にはOffice 365、コミュニケーションにはSlack、そしてこれらのID統合にはOneLogin、といった具合です。

 こうした考え方が生まれた背景には、以下が挙げられます。

クラウドの台頭

 優れたパブリッククラウドの利用が、自社でITインフラを持つ場合よりもコスト、生産性、セキュリティといったあらゆる局面で有利と考えられるようになったこと。

 「優れたパーツを組み合わせることで、トータルのコード量を減らしつつ品質をあげていく」という考え方(SOA)は既にありましたが、社員が数千〜数万の規模の会社ですら、コンポーネントの品質を上げ、再利用可能な状態にするには規模が小さすぎたのかもしれません。AWSやSalesforceといった巨大なクラウド事業者が数十〜数百万ユーザーという規模で利用されるようになることで、SOAの理想が現実のものになったと言えます。

人口の減少

 2つめは人口の問題です。これまでは「人口が増える」前提があったので、開発や運用で多少の頭数が必要でも力技でなんとかなっていましたが、人口が減少していくなかでは採用もままなりません。

 更に悪いことに、人口の減少が現実になることで将来的にはオフショア開発もやりにくくなります。「海外のアウトソーシング事業者にとって日本が将来有望なマーケットではなくなってしまっている」のです。今まではのんきに「人が足りなければ海外に頼めば良い」と思われていましたが、そのような認識を持てなくなりつつあります。

 これからのシステムを考えるにあたって「頭数でなんとかする」ことはできなくなります。既にあるものは使う。作るものを少なくする。それによって、携わる人数を減らしていく、といった考え方が欠かせなくなります。

スピードへの要求

 最後は、スピードへの期待です。これまでは「人口は増加し、経済は成長する」という前提の議論が成立していたので、長期の投資がやりやすく、経済が成長する前提で長期の投資が実行できた。ところが、そうした長期の見通しは立てにくく、競争相手は国の内外を問わず思いも寄らないところからやってくる。このような状況では、事前の見通しを立ててじっくり取り組む余裕は失われ、より早く、機動的にITインフラも姿を変えていく必要があります。これまでのように「数年かけて、よいものをじっくり作る」という計画が是認されにくい環境になっているわけです。

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