Fintechの正体

「ロボアドバイザー元年」を迎えた日本--投資をシステムにまかせる意味 - (page 3)

瀧 俊雄

2016-12-09 07:00

 少し派生的な話になりますが、金融の世界は、リターンが大きくて変動が小さいものがあれば勝ちであり、その答えが明確に出るのが残酷なところでもあります。それを示しているのが、「効率的フロンティア」というものです。

 例えば、毎年平均的に4%の収益を生みたかったら、12%くらい上下するリスクを取る必要があるとしましょう。100万円が116万になるリスクも取れば、92万円になるリスクも取ってくださいということですね。100万円投資したものが翌年92万円になるとやめたくなるのですが、長期的にずっと連続して10%下がることは、少なくとも理論的には確率はとても低いので必ずどこかで戻ってくるという想定があるのです。だから保有し続けることに意味があるのです。

また、いろいろな資産がある中で、このグラフで一番左側にある線を実現すると人間は幸福になれるので、この中から一番有利なものをピックアップする必要があります。例えば夏が猛暑になるか冷夏になるかわからないとしても、猛暑で使用量が増える電力会社の株と猛暑で不作になる作物を扱っている会社の株の両方を買っておけば、リスクが相殺できます。このように、一番リスクが低い組み合わせを実現することも、ロボ・アドバイザーにはできるのです。

ロボ・アドバイザー差別化の鍵は「Place」

 ただし、ロボ・アドバイザーは差別化しにくいサービスであることも事実です。一義的にはポートフォリオを作ることがロボ・アドバイザーの最大の価値なのですが、そのための方法論の基礎は、基本的にはどの会社でも一緒なので、インプットが同じであれば似た結果に収斂してしまいます。インプットで差別化をしようとする企業もありますが、全知全能のインプットがあれば、全部同じ答えになるわけで、結果を出すまでのプロセスはオープンソースに近いのです。そのため、どこかで付加価値がなくなる瞬間があるでしょう。

 ここで、マーケティングの4つのP(Product、Price、Promotion、Place)に当てはめて考えてみましょう。ロボ・アドバイザーの場合、Productの中身はオープンソースのようなもののため、付加価値が出ません。Promotionは広告予算をかけたら人の目を集めることができるという最後の砦ですよね。Priceについては、米国では、業界1位のBettermentと2位のWealthfrontが手数料を下げ合うようになり、そこに証券会社などが参入してきた結果、手数料0円の企業も登場してしまった。Priceに頼っていては、遅かれ早かれデフレ化が起きるでしょう。

 すると、世の中の約12%の人しか投資信託をしていない日本では、Placeが鍵になります。例えば、若い人が投資を初めて行うようなポジショニングや、そのためのツールが使いやすいこと、投資に関して適切なアドバイスをしてくれるという付加価値があれば、ある程度の手数料を取っても正当化されるはずです。

 また、誰がどういう座組みでサービスをやるのかも、今後ポイントとなるでしょう。小売事業であるとか、生活関連事業といった相手とのパートナーシップを通じて、これまでになかった顧客層にリーチできれば、上記の戦略がより活きてくる形となります。

 最後に、ロボアドにどこまで人工知能を使うのかという問いですが、市場に対するデータを推定するのには、よく言われているような高度な人工知能は不要です。理論を使えば、答えは明確に出るからです。一方で、辛抱強く投資と付き合えるような工夫は、人工知能に求めることができるかもしれません。投資は時間をかける我慢です。そういうものと人間が付き合うのは難しいので、ロボに任せることであまり状況を見ないで済み、投資を続けられることが利点になるでしょう。

この記事はマネーフォワードの 瀧 俊雄氏が語った内容をZDNet Japan編集部が再構成している

瀧 俊雄
取締役 兼 Fintech研究所長
1981年東京都生まれ。 慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。スタンフォード大学経営大学院、野村ホールディングスの企画部門を経て、2012年よりマネーフォワードの設立に参画。自動家計簿サービス「マネーフォワード」と、会計や給与計算、請求書発行、経費精算などのビジネス向けクラウドサービス「MFクラウド」シリーズを展開している。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」に参加。金融庁「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」メンバー。

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