それにしても、「会社として正しい方向に進んでいる」とのCourtois氏の“決め台詞”はさすがである。質問に対する明確な回答でなくても、その方向性を示す強い言葉だからだ。グローバル企業のエグゼクティブの巧みな“会見術”を垣間見た気がした。
「スタートアップ企業ならではの意思決定の速さと柔軟性を生かしたい」
(Deaps Technologies 宮本章弘 代表取締役CEO)

Deaps Technologies 宮本章弘 代表取締役CEO
富士通のSE子会社からベンチャー企業としてスピンアウトしたDeaps Technologiesが先ごろ、人工知能(AI)を活用したお出かけスマートフォン向けアプリサービス「Deaps(ディープス)」を開発し、12月から提供開始すると発表した。宮本氏の冒頭の発言は、その発表会見で、スタートアップ企業としての意気込みを語ったものである。
Deapsは主に20~30代の女性を対象に、人々の体験と情報の収集、整理分析、提案を、AIを活用して行うお出かけアプリサービス。利用者の想いや行動データをもとに、同じ趣味嗜好を持つ人々の体験や情報をつなぐことで、AIが利用者の潜在的な興味やキーワード検索では収集できない希少な情報を見つけ出し、深い経験ができるお出かけプランとして提供する。利用すればするほど、AIが利用者の趣味嗜好の理解を深め、より興味深いスポットやプランを提供できるように進化する成長型のサービスだとしている。

AIを活用したお出かけアプリサービス「Deaps」の画面イメージ
Deaps Technologiesは、富士通のSE子会社だった富士通システムズ・イースト(11月に富士通と経営統合)のベンチャー推奨制度を活用して7月に設立。富士通グループで13年間システムエンジニアを務め、ここ3年ほどはAIの導入コンサルティングに従事していた宮本氏が、同じくAI技術のバックグラウンドを持つメンバーとともにスピンアウトした形だ。
なぜ、スピンアウトしたのか。会見の質疑応答で聞いてみると、宮本氏は次のように答えた。
「AI関連ビジネスは意思決定の速さと柔軟性が問われる。富士通の中にいてはそれが思うように発揮できず、スピンアウトしてスタートアップ企業として臨むのが最適だと考えた。完全に飛び出してやることも考えたが、ベンチャー推奨制度を活用してまずは自分たちのやりたい事業の環境作りを優先しようと思った」
冒頭の発言は、このコメントのエッセンスである。一方、Deaps Technologiesの設立について、富士通グローバルサービスインテグレーション部門東日本ビジネスグループ ビジネス戦略本部長の中崎毅氏(旧 富士通システムズ・イースト)は、「スピンアウトについては、富士通システムズ・イーストとしてBtoCのビジネスができないという制約があったこともある。そこで、ベンチャー推奨制度を活用した第1号として思い切ってチャレンジしてもらうとともに、他の社員にも同じように夢を持ってもらいたいと考えた」と語った。
競争が激化するAI関連ビジネスで、果たしてDeaps Technologiesが大きく羽ばたけるか。それは、富士通グループの躍動感にもつながるのではないか。会見を聞いていてそう感じた。