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ITは「ひみつ道具」の夢を見る

知的存在としてのIT(後編)--テクノロジは人格をもつか

稲田豊史

2016-12-25 07:00

 アカデミー脚本賞を受賞したラブストーリー「her/世界でひとつの彼女」(2013年、監督:スパイク・ジョーンズ)の舞台は近未来。バツイチの中年男性セオドアが、対話型OSであるサマンサ(女性の声のみの存在)に恋をしてしまう物語だ。

 セオドアの職業は「手紙の代筆屋」。手紙を書くのが億劫な人間、言葉を綴るのが苦手な客に変わって、「模範的な美文」をスラスラと量産する職業である。彼は口当たりのいいテンプレ文章を作るのが、抜群にうまい。その能力を駆使して、礼状やラブレターを次々と「出力」していく。

 前編の内容を踏まえると、つまりセオドアという人間は、「模範的な美文を作成する」という意味において「もはん手紙ペン」の役割を、「文章作成を代行し、機械的に量産する」という意味において「リライトツール」の役割を、同時に担っているとも言えるのだ。

 そんなセオドアは、OSであるサマンサに愛情を抱く。知的で、気がきいて、会話に思いやりがあふれているからだ。

 一方のサマンサはコンピュータにインストールされたOSなので、ネットにはむろん常時接続だ。休むことなく世界中の情報を摂取し続けており、学習意欲も旺盛。多くのユーザー(製品化された汎用OSなのでセオドア以外にもたくさんの人間と接続している)と交流することで、知性だけでなく人間性も高めてゆく。進化を止めない、知的好奇心と創造性の塊のような存在だ。

 サマンサは当初セオドアの愛情に応えるが、やがてセオドアのもとを離れていく。知的に発達した結果、セオドアでは物足りなくなったのだ(とは言わないが、状況からして明らかにそうだ)。

 「もはん手紙ペン」や「リライトツール」は、テクノロジが担う創造という文脈においては、低位の技術である。知的好奇心や創造性を自立的に培うサマンサには及ぶべくもない。だからこそ、低位のセオドアは上位のサマンサに見限られ、振られた。あまりにも非情だが、なにげに世界の真理ではなかろうか。このあたり、「her」の名作たるゆえんである。

 ともかく、テクノロジの向かう先は、サマンサのように「人格を感じさせる人工知能」なのかもしれない。

 「ドラえもん」に登場する「アンケーター」【*1】という道具は、アンケートしたい人物の髪の毛が1本あれば、モニタにその人物が現れて会話できるというもの。髪の毛に含まれている遺伝情報から、髪の毛の持ち主の人格を読み込む仕掛けだ。

 「アンケーター」はさすがに夢のテクノロジだが、「返事先どりポスト」【*2】ならばいくらかの現実感がある。これは小型ポスト型の道具で、宛先つきの封書を中に入れると、もらえるはずの相手からの返事が瞬時に手に入るというもの。

 AIに作家を憑依させる発想――発表作品ほか、ネット上に落ちている彼の痕跡情報をすべて収集する――を最大限に応用して人格ごとシミュレーションすれば、私信に対する短いレス程度をAIがつづることは可能ではないだろうか。

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