このようにOSSを採用しシステムは安定的に稼働させることができ、コストも削減した上、ベンダーロックインからも解放されました。しかしながら、このような取り組みをすることで、もっと大きな成果を得ることができました。
それは仕事に対する取組み姿勢の変化です。OSSを活用する前は、ベンダーから製品および保守サービスを提供してもらうことで、システムや自分たちを「守ってもらう」という意識だったそうです。問題が発生するとベンダーが調査している時間をただ待つだけで、何もできず非常に閉塞感を感じていたそうです。
OSSを採用した後は、保守サポートベンダを自由に選択でき、コミュニティから情報を自由に入手することも可能です。また、他のユーザーともオープンに情報交換しているといいます。OSSを活用する前の閉塞感から、開放感や充実感、責任感を感じるようになったそうで,自分たちの責任で覚悟をもって仕事に取り組む姿勢に転換し、新しいことに積極的にチャレンジし、「社内を変革していく」という意識が芽生えたそうです。
通常、OSSを活用したという事例を聞くと「コスト削減」「ベンダーロックインからの解放」ということで終わるのですが、この事例では、その先に情報システム部門のマインドが大きく変わったというところが興味深いところです。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2015」(2014年調査)によると、自社ビジネスモデルの変革を情報システム部門のミッションと明示している企業は52%に及びますが、このミッションに応えられていると回答している企業は12.4%にとどまっています。
ITを活用した業務プロセス変革や事業戦略のサポートなど、積極的なIT活用の提案や課題解決のために最も重視しているのは「情報システム部門、情報子会社が自ら事業部門に入り込み、業務面からの課題の発見に取り組む」施策で、重視項目1位に挙げている回答企業が43.0%、2位に挙げている企業が15.8%、3位に挙げている企業が10.3%にも達しています。
この事例のように情報システム部門が活性化することで、企業がビジネスモデルの変革までたどり着けるとすると、OSSの役割は大きなものになってくるといえるのではないでしょうか。
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- 吉田行男
- 日立ソリューションズ 技術開発本部 研究開発部 主管技師。 2000年頃より、Linuxビジネスの企画を始め、その後、オープンソース全体の盛り上がりにより、 Linuxだけではなく、オープンソース全般の活用を目指したビジネスを推進している。 現在の関心領域は、OpenStackを始めとするクラウド基盤、ビッグデータの処理基盤であるHadoop周辺及びエンタープライズでのオープンソースの活用方法など。