FinTechの実際

FinTech時代の情シス改革論--開発力を取り戻せ - (page 3)

小川久範

2017-02-21 07:00

FinTech時代に求められる組織体制とは

 金融機関にとって情報システムは必要不可欠で、競争力を左右するものであるにも係らず、もはや独力でシステムを構築することができなくなってしまった。金融機関にとって情報システムは、かつては業務効率化の道具にすぎず、ユーザー部門の要望に応じて開発され、情報システム部門はコストセンターであると認識されてきた。コストは削減することが正しいため、開発は外注に委ねられた結果、金融機関自身のシステム開発力は弱体化した。しかし、FinTechが進展すれば、金融機関にとって情報システムの重要性が高まる一方、実店舗やそこで働く人員の重要性は低下していく可能性が考えられる。情報システムはコストではなく、金融機関が生み出す価値そのものになると予想する。

 金融機関は従来の認識を改め、価値を産み出す源泉として情報システム部門に積極的に投資する必要がある。具体的には、国内外のITベンダーやネット企業で活躍する一流の人材を高給でスカウトし、突出した技術力を持つ者や、テクノロジとビジネスの双方が分かる者を集め、外注に頼ることなくシステムを開発・運用し、テクノロジを活用したビジネス改革を実現する体制を整えなければならない。実際に、海外の投資銀行などでは、日本円で数千万円もの年俸を用意し、優秀なIT人材を集めている。人材獲得競争で後手に回らぬよう、人事制度も含めた改革が求められる。


 ユーザー部門と情報システム部門の関係も見直すべきである。そもそもユーザー部門と情報システム部門という分類自体が意味を成さない時代が来ている。最新のテクノロジを活用して新しいビジネス作り上げていく時代において、ビジネスのことしか分からない人材や、テクノロジのことしか分からない人材の活躍の場は限られる。ビジネスマンは技術を、エンジニアはビジネスを、それぞれ理解するよう努め、足りない部分を補い合いサービスを開発する。それを可能にする体制の構築や、実際に機能する組織風土の醸成が、金融機関の競争力を高めよう。

 100年後の金融業を想像してみる。その将来像は人によりさまざまだと思うが、100年後も銀行に行ってATMから紙のお札を引き出したり、証券マンが飛び込み営業で投資信託を売りに来たりすると考える人はほとんどいないのではないだろうか。お金は電子化されているし、営業マンの代わりに人工知能(AI)が金融商品を勧めるという程度であれば、筆者も想像することができる。こうした変化が起きるのが50年後なのか、それとも10年後なのかは分からない。ただし、恐らくどこかの時点で確実に起きる変化である。FinTechの登場により、金融業は新しい姿に向けて確実に歩み始めた。情報システム部門も変化の時を迎えている。

小川久範
日本アイ・ビー・エムを経て2006年に野村證券入社、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーへ出向。ICTベンチャーの調査と支援に従事する。560本以上の企業レポートを執筆し、数十社のIPOに関与した。2016年みずほ証券入社。FinTechについては、米国でJOBS法が成立した2012年に着目し、国内スタートアップへのインタビューを中心に、4年間に亘り調査を行ってきた。2014年10月には、国内初のFinTechに関するレポートを執筆した。FinTechエコシステムの構築を目指す「一般社団法人金融革新同友会FINOVATORS」副代表理事。

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