ITは「ひみつ道具」の夢を見る

「ドラえもん」に学ぶ設計思想--なぜ日本人はロボットに親しみを感じるのか - (page 3)

稲田豊史

2017-03-26 07:00

 ドラえもんは優等生である妹のドラミに比べてポンコツであり、たびたび失敗するが、のび太は完全なドラミより不完全なドラえもんを選ぶ(※)。T-800は旧型のロボットであり、自分よりずっと性能の良い最新型ロボットT-1000と死闘を繰り広げ、観客の涙を誘う。デイビッドは人間からの愛を乞うデリケートな存在で、頼りがいのかけらもない。でも、だからこそ、彼らは愛される。

 『鉄腕アトム』の生みの親・手塚治虫は、壮大な生命賛歌をモチーフとする連作シリーズ『火の鳥』の執筆を生涯のライフワークとした。そのひとつ『火の鳥 復活編』(「COM」70年10月号〜71年9月号掲載)に、「ロビタ」と呼ばれるロボットのキャラクターが登場する。

 ロビタは30世紀の世界で量産型の召使いロボットとして、人間から愛されている。その理由は「コンピュータのようなシャクシ定規な心を持たず、どこか人間くさかった」「人間らしい失敗もした」「感情らしいもので機嫌が変わることもあった」(いずれも作中の解説より)からだ。

 さらに、こうも説明されている。

「ロボット技術が発達して精巧なロボットがつくられていっても……ロビタたちは……人間に好かれていたのである」

 ロビタがなぜロボットとして「不完全」なのかは、50年に1本の傑作といっても過言ではない『火の鳥 復活編』を実際に読んでもらうとして、デザインは垢抜けないうえ機能もそこそこなロビタが未来世界の人間に愛された理由は、なんとなく想像がつく。手塚治虫を師として仰いだ藤子・F・不二雄が、ドラえもんを「不完全なポンコツロボット」として描いたのも、あわせて腑に落ちるというものだ。

 近い未来、われわれが「アニメや映画に出てくるような、バディとしてのロボット」をもし開発するのなら、ロビタやドラえもんに見られる、「愛すべき不完全さ」とも呼ぶべき設計思想は、おそらく留意しておいたほうがよい。

 最後に、日本が誇る美容整形の第一人者である高須克弥氏(高須クリニック院長)の言葉を引こう。そのゴッドハンドによって数え切れないほど「完全な顔」を作り上げてきた彼が、現在の事実婚パートナーであるマンガ家・西原理恵子氏の顔にだけはメスを入れない理由が、以下だ。

「いいですかりえこさん。人は欠損に恋をするんです。黄金率でないもの、弱いもの、足りてないもの。人はそれを見た時、本能で補ってあげようとする。そして、その弱さや未熟さを自分だけが理解していると思う。欠損の理解者になるんです」 ――『ダーリンは70歳』(西原理恵子・著/小学館)より
  • 脚注
  • 【*】てんとう虫コミックス 第24巻「ションボリ、ドラえもん」(小学三年生」81年4月号)より。このくだりは『ドラがたり――のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(稲田豊史・著/PLANETS・刊)にも詳しい。なお同書には本連載の「ドラえもんが誕生する世界のために(前編)(後編)」も改稿のうえ収録されている。

稲田豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。
著書に『ドラがたり――のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。
手がけた書籍は『ヤンキー経済消費の主役・新保守層の正体』(原田曜平・著/幻冬舎)構成、『パリピ経済パーティーピープルが市場を動かす』(原田曜平・著/新潮社)構成、評論誌『PLANETSVol.9』(第二次惑星開発委員会)共同編集、『あまちゃんメモリーズ』(文芸春秋)共同編集、『ヤンキーマンガガイドブック』(DUBOOKS)企画・編集、『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)編集など。
「サイゾー」「SPA!」ほかで執筆中。(詳細

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