そもそも「全く知らない他人」の感覚や反応を想像するには訓練が必要である。そのためにはまずは、何か新しい、まだ使ったことのないシステムやサービスを使うときの「自分」の感覚や反応を想像することから始めるとよい。
もちろん、実際に使ったときに想像したとおりであるかを確かめたりして精度を上げるようにする。自分の内面なら当然わかる、と思いがちであるが、それを客観的に捉えようとし、確かめることが、他人の感覚を適切に想像することにもつながる。
その次には、「身近な他人」を対象とするとよい。身近な人物であれば、反応が想像しやすく、また不自然な想定をした際の違和感も見出しやすい。つまり、自分、すなわち製品やサービスの提供側に都合よく反応したり動いたりしてはくれないということが想像しやすい。
この「都合よく反応したり動いたりしてはくれない」ということはあまりに当たり前なことなのではあるが、UIやUXをデザインするにあたって、意外とおろそかにされやすいので気をつけたい。
あとは、プロトタイプなどを作り、実際にいろいろな人に触ってもらいその様子を観察することで、どういう反応がありうるか、の想像の引き出しの数を増やしておく必要がある。
実際に何かのシステムをユーザーに使ってもらったときに、いきなり想定外の操作をされた経験のある人も多いであろう。そうした「想定外」がなるべく「想定内」になるようにするのが、UI/UXをデザインするための訓練である。

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慣れと「直感」
「直感」という言葉もUI/UX関連で誤解されがちな言葉のひとつである。「本能に近いもの」「学習によらないもの」と思っている人が多いかもしれないが、直感とは、実際には多くの知識や前提、習慣などに基づいて形成されている。
つまりは「過去のパターンからすると、こうなっているはず」という経験に基づき、人が途中の思考プロセスを省いて結果をいきなり持ってくるのが「直感」なのであり、文化や慣れているものによって「直感的」なものは変わってくる。
たとえば、PCに触れる機会が少なくスマートフォンのみを使っているユーザーには、フリック入力が最も「直感的」な日本語入力手法になっているであろう。
別の言い方をすると「余計な解釈や翻訳が必要ない」のが「直感的」なものごとである。ユーザーが何かを意図したときに、反射的に思いつく手段・方法・行動などで操作でき、それを他の形に変えたりする必要がないのが、「直感的なインターフェース」なのである。
さいごに
UI/UXを考えるにあたって基本的かつ重要な要素を復習してきた。何事も、基本は疎かにすることはできない。駆け足で眺めた感じではあるが、これらを起点に学習・練習したり、あるいは学んだ・身につけたことを振り返り確認したりしていただきたい。
その上で、さまざまな事例に対して、適切にUIやUXをデザイン・評価していただきたい。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。HCI が専門で、GUI、実世界指向インターフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。