その数日後、WannaCryはオーストラリアのビクトリア州に設置された55台のスピードカメラを襲った。この感染は、保守作業員が用いたUSBメモリが汚染されていたという、ヒューマンエラーに起因するものだと考えられている。幸いにも、スピードカメラ自体はインターネットに接続されていなかったため、感染が他のネットワークに拡大することはなかった。こういったニュースを見聞きするにつけ、WannaCryは最初の大流行から1カ月以上経過しているにもかかわらず、なぜ企業にとっていまだに問題の種となっているのかという疑問が首をもたげてくる。
その理由として真っ先に挙げられるのは、WannaCryがワームのような性質を持っているという点だ。WannaCryは自己増殖のために、米国家安全保障局(NSA)から流出した「EternalBlue」というエクスプロイトを使用している。EternalBlueは、「Windows」のSMB(Server Message Block)と呼ばれるネットワーキングプロトコルを悪用するものだ。
このワームが野に放たれ、最初の大流行で感染したシステムの一部が、感染対象のコンピュータを探し出そうといまだに活動し続けているのだ。
Dell Technologies傘下のSecureWorksにおけるCounter Threat Unit(CTU)の上級セキュリティリサーチャーRafe Pilling氏は、「WannaCryはインターネット内をランダムに広がっていくワームだ。このため、感染後に適切な除去作業を実施していないシステムはすべて、ワームを拡散させ続けていく」と述べている。
「これによって、パッチが適用されていないネットワーク内や環境内で新たな感染が引き起こされる可能性があり、ワームの拡散が続いていくことになる」(Pilling氏)
ワームが最初に拡散し、その後かなり長期間にわたって問題が継続するというのは今回が初めてではない。感染行動によってネットワークに大混乱をもたらした「SQL Slammer」は、最初に発見された2003年から14年経った今でもいまだに攻撃を続けており、2008年に猛威をふるった「Conficker」ワームは、2016年12月時点で最も一般的なマルウェアだとされている。
Flashpointのマルウェア担当上級アナリストであるRonnie Tokazowski氏は、「WannaCryはまだ撲滅されていない。これはConfickerのようなワームがいまだにインターネット上で拡散している状況とよく似ている。日頃からパッチを適用していない組織は、WannaCryなどの各種のサイバー攻撃に対して無防備だと言える」と述べている。
WannaCry、そしてConfickerといった、多くの場合に簡単に無力化できる比較的単純な脅威に対処できないというのは、パッチを適用していないためなのだ。