イノベーションを起こす「デジタル人類」

シンプルなIoT化で顧客はニコニコ顔--その事例、「デジタル人類」の仕業です - (page 3)

林大介

2017-07-12 07:00

コメディエンターテインメントで、笑いに従量課金する

 三つ目の事例は海外のコメディシアター「Teatreneu」の事例である。スペインのバルセロナにあるこの劇場は、税率の変化などの外部環境の変化で収益が悪化し、打開策にあえいでいた。

 そこで、業績回復の一手として「入場は無料、笑った分だけ課金する」という従量課金(Pay Per Laugh)の公演を立ち上げ、変わったIoT事例の一つとして紹介されるまでになった。

 この従量課金制を支える仕組みはそれほど複雑ではない。観客席の前に設置されたスマートデバイスが、観客の”笑顔”を検知する度に30セントずつ課金する(上限は24ユーロ)だけである。

 上限が決まっているため、観客は気軽に笑うことができただろう。この辺りは前回の連載時に言及した「人の摂理に反しない」ようにバランスを取っていると感じる。

 現在では収益悪化の危機を脱したのか、この仕組みでは運営していないそうだが、ちょっとしたアイデアをまず試し、すぐに”小さな勝利”を勝ち取ったという点で、優れたイノベーションの事例である。

降りる前に支払いが完了するタクシー


 最後の事例は誰もが一度は利用したことがあるタクシーの事例である。これは多くの人に共感をいただけると思うが、タクシー利用時に不便に感じることの一つに料金の支払いがある。

 現金払いが最もポピュラーな決済手段であるが、タクシーに乗った時に限って1万円札しか持っておらず、運転手に申し訳ない気持ちで支払いを済ませたという経験の持ち主は多いはずだ。

 また、多くのタクシーではクレジットカードが使えるが、これもサインなどの手続きが面倒である。都市圏のタクシーは交通系ICカードや、その他の電子マネーでの支払いができる車輌が増えている。

 こちらは現金やカードに比べて支払いの手間は少ないが、事前にチャージする必要があるなどの手間は残ったままだ。

 また、タクシー業界は黒船「Uber」の脅威にも直面している。まだまだ絶対数は少ないが、タクシーと異なる顧客体験を提供するだけでなく、支払い方法も至ってシンプルで分かりやすい。そんな状況下で登場したのが全国タクシーが手がける新サービス”Japan Taxi Wallet”である。

 これはタクシー乗車中に対応するアプリでQRコードを読み取るだけで、予め登録しておいたクレジットカードによる決済が完了するという極めてシンプルな価値を提供するサービスだ。

 降車時には、運転手から領収書を受け取るのみである。筆者もこの仕組みを実際に体験してみたが、先述したどの支払い方法(現金・カード・電子マネー)よりもはるかに優れていると感じた。まだまだ対応車輌は少ないが、さらなる拡大を願うばかりである。

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