内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」

IT部門内にイノベーション特区を創ろう

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2017-08-16 07:30

 ITを活用したビジネスイノベーションや新規ビジネスの創出への取り組みとしてタスクフォースを立ち上げたり、専門組織を設置したりする動きがみられます。しかし、組織を設置して担当者をアサインすればそれだけでイノベーションが創出されるというものではありません。今回は、イノベーション特区の考え方を紹介します。

企業がビジネスを創出することの難しさ

 既存事業を保有する一般的な企業(主に大企業)が、ITを活用したイノベーションやデジタルビジネスの創出に対してさまざまな取り組みを展開しようとしていますが、その成功率は必ずしも高いとはいえません。

 経営者や事業責任者は、これまで市場を切り開き、自社ビジネスを牽引してきた経験者であり、成功者でもあります。そのため、自分達にできたことは、今の従業員にもできるはずだと考えがちです。これまでにも、社内各部門から精鋭を集めたタスクフォースを結成してビジネス創出の企画を練る活動を推進したり、社内公募などによって新規ビジネスのアイデアを収集したりする取り組みは多数行われてきました。

 しかし、ビジネス創出は簡単なことではありません。推進メンバーが兼務で、かつ多忙である、権限が与えられていない、既存事業部門の協力が得られない、アイデア出しや役員への報告が目的となってしまうなど、さまざまな理由によって、アイデアがアイデアのままにとどまり、実行に至らないという例も散見されます。

イノベーション特区の考え方を取り入れる

 既存企業が新規の取り組みを推進する際には、社内の慣行やルールを一部打破したり、特別な対応が求められたりする場合があります。従来の進め方やルールに忠実に従っていると、事業化のスピードが阻害されたり、外部の柔軟な活用が進まなかったりするためです。これに対して、昨今では社内にイノベーション特区を設けるべきという意見が出てきています。

 イノベーション特区の考え方は、もともとは自治体などが産業振興や雇用創出を目指して、地域限定的な規制緩和や支援施策を行うものでした。江戸時代の鎖国の際に設けられた長崎の出島になぞらえて「出島戦略」などという呼び方をする場合もあります。イノベーション特区には、予算や各種社内プロセスに関して、例外的な対応や権限が与えられます(図1)。

図1.イノベーション特区に与えられる権限の例(出典:ITR)
図1.イノベーション特区に与えられる権限の例(出典:ITR)

 既存企業にとって、社内のルールや組織を大きく変えることは容易ではありません。従来の組織哲学や成熟している既存事業を破壊するリスクは誰しも負いたくないというのが本音ではないでしょうか。その一方で、デジタルビジネスによるイノベーションには期待しているという場合において、限定したビジネス領域や特定のプロジェクトに特別なルールを適用する、というのがイノベーション特区の考え方です。

 新興のベンチャー企業と伝統的な大企業では、企業風土や従業員のメンタリティが大きく異なることは否定できません。社内にベンチャー企業のような「出島」を設置することで、イノベーションへの障壁を取り払い、事業化のモチベーションを高めることも有効な打ち手となることを念頭に置くべきです。

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