人工知能(AI)やIoTを活用した新しいビジネスの創出は、製造業では大きなテーマとなっている。それは、「未来に向けた取り組み」といったものではなく、オリンピック・パラリンピックが開催される2020年のあたりまでに、具体的なモデルは構築しておかなくてはならないものとしてとらえられている。
そこで重要になるシステムの1つがPLM(製品ライフサイクル管理)だ。PLMは、一般的にCADデータやBOMの情報を一元的に管理するPDM(Product Data Management)の機能を包含し、製品にまつわる情報すべてのライフサイクルを管理するマネジメント手法で、多様なソフトウェアが市場に出ている。
なぜPLMが、これまで以上に重要になるかというと、AIやIoTによる生産性向上やビジネス創出などの仕組みが新たに構築された場合、製品情報を管理するPLMが、それらに迅速に対応する必要があるからだ。
さまざまな機器に取り付けられたセンサ情報を取り込むIoTシステムからの情報を、AIで分析する仕組みを構築した場合、分析結果を製品の開発や設計に生かせなくては意味がない。解析データを生かす仕組みはPLMが中心となってくるわけで、IoT、AIなどのシステムとPLMとの連携に手間取るようなことがあれば、競合との差はどんどん開いていってしまう。
現在、1種類の製品、もしくは類似したいくつかの製品を、単一の管理手法で製造している企業の場合、こうした懸念はそれほど大きなものではないかもしれない。システム連携に手間取ることはあるかもしれないが、扱うシステムはすべて単一なので、いったん連携してしまえば後は運用には苦労しないで済む可能性はある。
しかし、組織の大小にかかわらず、量産、中量産、一品ものといった種類の製品を各部門で製造する場合は事情が異なってくる。それぞれの部門では、PLMで扱う情報の種類とその管理手法は自ずと異なってくるわけで、それそれがAI、IoTという技術革新の波に対応していくには、PLM基盤そのものの運用を再考し、各部門の個別のニーズに応えながら、全体最適な状態を維持できるかを見極める必要がある。
こうした取り組みの一例として、今回は川崎重工業を取り上げる。
アフターサービスの高度化に利用されるAIによるテキスト分析
川崎重工業では、AIなどを活用したアフターサービスの高度化の仕組みを構築中だ。同社では、顧客に納入した製品のマシンデータを設計や開発に活用するということは従来から行ってきたが、CRMに蓄積されたデータをAIによって分析し、その結果をPLMに流して改善を迅速に行うという試みは初めてのことだ。
同社企画本部 情報企画部 システム企画課 基幹職の三島裕太郎氏は次のように話す。
「AIで何を分析しているのかというと、サービス担当者や営業担当者が書き込むテキストデータなんです。ここで利用しているAIは、膨大な教示データがなくても、テキストから、関連性を見出して新しい発見を促してくれます」
「人が気づけない多様な関連性を指摘するAIの力は大きい」と話す三島氏
このAIは、神戸デジタル・ラボが京都大学と産学連携によって共同開発したデータ活用技術を搭載したもので、さまざまな不具合情報や修理情報などから、人間では関連づけられない関係性を可視化してくれるという。
「まったく種類の異なる不具合情報の関連性をAIによって明らかにされることで、原因の特定が迅速化するケースがありました。テストケースとして営業担当者のテキストデータを分析したところ、ビジネスプロセスの異なる顧客について、共通するニーズを読み取ることができ、現在新しい手法として活用しています。ここで見られた関連性は、とても人では見出すことのできないものでした」
AIによる分析基盤とCRM 、PLMの連携イメージ
同社では、分析エンジンに「SAP HANA」を活用してスピードアップを図るとともに、その結果を蓄積したアフターサービス用のCRMとPLMを連携させ、CRMのデータをPLM内での是正措置や予防措置のプロセスなどに組み込んでいるという。
CRMとPLMとの連携作業は、スムーズに進んでおり、特に問題は抱えていないとする。