「カブトムシの角は、なぜサナギで突然生えるのか――そのメカニズムが明らかに」という記事をつい興味深くて読んでしまった。
確かに幼虫の時は、芋虫みたいな形状で角なんかどこにもないのに、サナギになるときに突然角が現れるんだからすごいものである。幼虫時代の頭部に折り畳まれた状態で角が作られていて、それがサナギになるときに風船を膨らますみたいにブォブォブォッと立体に展開するんだそうである。
ある年齢に達すると自分の頭に突然角が生えるとか考えると尋常ではない。
でも、昆虫の世界では角だけでなく、固い外骨格を持っていたり、自分の身長の何十倍も飛び跳ねたり、更には空まで飛んだりと、その身体能力は素晴らしい。
これが進化という長い時間をかけた試行錯誤の結果だとすれば、ビジネスにおけるイノベーションにも大いに生かせるような気がするのである。生物も自らが持続的に繁栄できるように試行錯誤を繰り返して環境に適応し続けており、その意図はビジネスと変わるところはない。
その数億年の試行錯誤に基づく進化の成功事例は、たかだか年単位のビジネスの成功事例よりもよほど含蓄がありそうである。生物にビジネスモデルはないかもしれないが、どんな環境(市場)で何を強みとして(コンピテンシー)、繁栄を持続するのかという戦略性は変わるところはない。
また、環境や競合などのパラメータが変化し続けるのも同じである。違うのは、イノベーションの対象が、ビジネスではなく、自らの生物としての有り様そのものであるという点である。
『ウニはすごい バッタもすごい デザインの生物学』の中で、その著者である本川達雄氏は、生物の中で「一番成功しているのが昆虫」と言い切る。その理由として、昆虫種が全動物の7割、生物全体の半分を占めていること、個体数でも一番多いことを挙げている。
その固くて水分の蒸発を抑える外骨格、飛翔する能力など自らの体をイノベーションする能力は素晴らしい。彼らはドローンなど開発しなくても良いのである。
では、昆虫はなぜ、これだけの繁栄を可能とするイノベーションを成し得たのだろうか。本川氏は、小さいことが多様化の源泉であるとする。結果として、さまざまな試行錯誤とイノベーションにつながっている。なぜ小さいことが良いかを同書からサマライズすると、
- 小さければ世代交代が早く、変異も多く生じる
- 小さければ環境の変化に弱く、すぐ淘汰される
- 小さければ行動範囲が狭く、優れた変異が種として定着しやすい
- 小さければ少量の食糧しか必要とせず、特殊化した種でも生存できる
これはまさにスタートアップのイノベーションそのものだし、大手企業であれば、いかにこうした環境を作り出せるかということだ。昆虫に見習えば、しまいには空を飛んだり、頭から角を生やしたりと、今までに全く存在しなかった生命のあり様(ビジネスモデル)が生みだせるに違いない。
やっぱり小さいものを早く回すというのは重要だ。でもって、昆虫の場合は、その一つ一つの挑戦を、その命を懸けてやるから、全て全力である。
そういえば、思い起こしてみると中学と高校は生物部だったな。もちろん専門は魚で、部費で釣りに行っていたような気がする。でもって、家の水槽でカワハギとかフグか飼って観察してた。昆虫やっときゃ良かった。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
アマゾンウェブサービス ジャパンにて金融領域の事業開発を担当。大手SIerにて金融ソリューションの企画、ベンチャー投資、海外事業開発を担当した後、現職。金融革新同友会Finovators副代表理事。マンチェスタービジネススクール卒業。知る人ぞ知る現代美術教育の老舗「美学校」で学び、現在もアーティスト活動を続けている。報われることのない釣り師