“泥にまみれて”農業IoTを実践する--IIJの取り組み

渡邉利和

2017-12-11 10:35


IIJ クラウド本部 副本部長の染谷直氏

 インターネットイニシアティブ(IIJ)が、モノのインターネット(IoT)事業に関する説明会を開催した。この中で時間を割いて紹介されたのが農業IoTへの取り組みの実践例だ。現実世界に各種センサが入り込み、あらゆる場所からデータを収集できる――といったことは以前から繰り返し語られているが、これを観念論で終わらせず、実際にシステムを構築するとすればどういうことになるのかという点が、同社自身がプロジェクトを手がけることで得られた実体験として語られた。

 IoT事業の概要について、クラウド本部 副本部長の染谷直氏が説明した。IoTへの取り組みは、2016年7月の「IIJ IoTサービス」の発表からスタート、同年8月には「国内初 フルMVNO発表」を開始しており、この組み合わせでIoTプラットフォームとモバイルネットワークの両方を提供する体制ができ上がっている。なお、2018年3月には「フルMVNOを活用した新サービスの提供開始」について発表する予定だという。


IIJ クラウド本部 クラウドサービス2部 ビッグデータ技術課長の岡田晋介氏

 続いて登壇したクラウド本部 クラウドサービス2部 ビッグデータ技術課長の岡田晋介氏は、IIJ IoTサービスの構成要素に関して説明した。IoTに必要な技術要素は、大まかに「センサ」「デバイスゲートウェイ機器」「ネットワーク」「ネットワーク/デバイス/データの管理/監視/制御」「アプリケーション/ミドルウェア/データベース」「特定業務/業務アプリケーション」の6階層に整理されることが多いが、IIJではネットワークを中核とした3階層の機能をIIJ IoTサービスとして提供する。

 具体的には、「業界最安値水準のIoT向けSIM」の提供、閉域網を活用した「マルチクラウドへの安全な接続」、同社独自のルータ管理技術をIoTに応用した「デバイスの集中管理」といった機能がIoTサービスとして提供される。同氏は最後に、「IoTの技術的な課題はクリアになってきたものの、問題は具体的な利活用シーンであり、さらなる付加価値や新しい取り組みについてはこれからの課題」とした上で、「では、自分たちでやってみたら?」という思いが農業IoTプロジェクトへの取り組みの背景にあるとした。


IIJ ネットワーク本部 IoT基盤開発部長の齋藤透氏

 最後に、ネットワーク本部 IoT基盤開発部長の齋藤 透氏が具体的な農業IoTへの取り組みを紹介した。これは、「低コストで省力的な水管理を可能とする水田センサの開発」を目的としたものだ。農林水産省の平成28年度補正予算での「革新的技術 開発・緊急展開事業」の一環として、同社を研究代表機関とする「水田水管理ICTコンソーシアム」が3カ年計画で開発を進める

 前提となるのは、稲作の「人的集積は進むが、面的集積は進まない」という現状だ。繰り返し報道されるように、後継者不足などを背景に農業従事者は減少傾向にあり、農地が特定の大規模農家に集まる傾向(人的集積)がある一方、こうした農地は必ずしも隣接しているわけではなく、例えば、小さな水田を数多く管理するといった状況になる。また、水田の水管理は一定の水位を維持しておけばよいというものではなく、稲の発育状況に応じて水位のきめ細かな上げ下げが必要となるようだ。

 こうした管理を多数の水田に対して実行する負担は大きいため、これをIoTの活用で自動化する、というのが今回の取り組みが目指すところだ。一方、1つの水田から得られる収益額はそう大きなものではないことから、コストの制約は厳しいものがある。実際にセンサを試作して水田に設置しているとのことだが、まさに“泥まみれ”の取り組みで、限られたコストで実用的なものをつくるのは苦労が多いようだ。センサに泥が詰まるといった、従来のITシステムの設計では考慮しないような現実にも直面するようで、現実世界でITを活用するとはどういうことなのか、やってみて始めて分かることも多いのだろう。

 IoTの新たなユースケースを生み出すためには、まさにこの「やってみる」ことが今何より重要なことだということがよくわかる取り組みだと言えるだろう。


農業IoTで活用する技術(出典:IIJ)

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