DEJIMAが協業を推進する
参考にした米国のビジネスモデルがある。開発する側のリスクで開発し、事業が成功したら、その売り上げや利益の何%かをシェアするビジネスモデルだ。契約期間は3年などさまざまだが、ビジネスが成り立つためには、両者がシステムやサービスの価値を認め合う必要がある。
その第一歩が、使った分を支払ってもらう課金モデルのクラウドサービスだ。だが、「ITはビジネスを支えるものなので、課金の問題ではない」となり、試行錯誤する中で、オープンイノベーションにたどり着いた。ところが、世の中で騒がれているオープンイノベーションだが、多くのユーザー企業が目指すビジネスの内容や目的を明かさない。「目標を共有し、一緒に新しいビジネスを実現するのは容易なことではない」と分かった。
そこで、「アイデアを持っている人をお手伝いする」(大久保専務)場として、DEJIMAを開設した。アイデアの実現に必要なIT活用を支えるIT人材を配置する。実現に必要な海外の人材のほか、製品やサービスもそろえる。江戸時代、日本で唯一の海外との貿易を許されていた長崎の出島に来れば、異国の文化に関する知識が得られる。そんな意味を込めたのだろう。
DEJIMAは「こんなモデルをちょっと作りたい」となれば、PoCから実装まで支援する。ゼロから作るのではなく、世の中に今あるサービスや製品を使う。早く立ち上げるためで、提携する海外のスタートアップも協業に加える。「新しいビジネスモデルを一緒に考えてほしい」という企業がDEJIMAを活用し始めたという。
とはいっても、オープンイノベーションを実行に移す企業は、大久保専務の肌感覚で10%程度。「工数で出してほしい」という要求が圧倒的に多いが、「私個人の期待は、オリンピック後に50%の人がオープンイノベーションになれること」。それまでに多くの成果を出し、中身の価値が収益に反映されるビジネスモデルによって、成長を可能にする。

- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。