「Xeon Phi」を展開したIntel
IntelもNVIDIAやAMDへ対抗するために、「Xeon Phi」というプロセッサをリリースしている。なおXeon Phiは、GPUとしてではなく、HPC(Hight Performance Computing)などに向けたプロセッサだ。
Xeon Phiの特徴は、NVIDIAやAMDのようにベクター計算を主眼とするよりも、x86コア+ベクター計算ユニットを1つのコアとして、このコアを多数入れ込んだMany Integrated Core(MICアーキテクチャ)となっている点だろう。

Xeon PhiはスーパーコンピュータやHPC分野などで利用されている(Intelのウェブサイトより)
一方Xeon Scalableなどのサーバ向けプロセッサは、x86コアのパフォーマンスや機能をアップしていく方向性にあり、1コア当たりのトランジスタ数は増えていく。また、1つのチップに入れ込めるコア数は、現状では28コアぐらいとなり、NVIDIAのVoltaアーキテクチャなどからみれば非常に少ない。
ある意味でXeon Scalableなどのサーバ向けプロセッサは、強力なロケットエンジンを4~5台組み合わせて打ち上げるロケットに例えられるだろう。MICアーキテクチャを採用したXeon Phiは一台一台のロケットエンジンはそれほど強力では無いものの、十数台~二十数台のロケットエンジンを組み合わせて推進力を得る米民間宇宙企業SpaceXの「Falcon Heavy」のようだ。

Many Integrated Core (MIC)アーキテクチャは、多数のx86コアを内蔵することでノウハウの多いx86プログラムを動作させる。ただしその性能を引き出すには、並列性を高めたプログラムを開発する必要がある(Intelのウェブサイトより)
Xeon Phiの前身は、Intelの研究チームがMICアーキテクチャのメリットを検証するためにチップ化したものだ。MICアーキテクチャのコンセプトは、最新の半導体製造プロセス技術を使って、1990年代にリリースされた「Pentiumプロセッサ」を基本として1つのコアに縮小し、60コアや70コアなどと増やしたものになる。
GPUと違ってコア自体がx86アーキテクチャを採用しているため、Linuxなどのx86ベースのOSがXeon Phi上で動作する。GPUのように一からプログラミング環境を構築したり、開発ツールを用意したりしなくても、x86の開発環境をそのまま利用できることから、アプリケーション開発のハードルは低いと考えられていた。
しかし、第1世代のXeon Phiは、1コアのパフォーマンスがあまりに低く、一部のスーパーコンピュータでの利用にとどまった。そこでIntelは、第2世代のXeon Phiでモバイルなどに利用されていた「Atomコア(Silvermont)」へ変更し、パフォーマンスをアップさせた。また、Xeon Phi自体でOSを動作するように改良したり、Xeonで採用されたベクター計算ユニットのAVX512などを採用したりした。ただ、急拡大したGPUのAI分野での応用に関しては、NVIDIAが主流となり、Xeon Phiはあまり使用されていない。スーパーコンピュータやHPC分野での利用に限定されている状況だ。
Intelは、第3世代のXeon Phi(Knights Hill)を2017年中にリリースする予定だったが、2017年11月に米国で行われた「Supercomputing Conference(SC)17)のタイミングで、Xeon Phiの開発責任者が第3世代Xeon Phiの開発を中止し、新たな計画を策定していることを明らかにした。
開発中止に関しては、Xeon Phiのアーキテクチャ的な問題というより、第3世代Xeon Phiが利用するはずだった10nmの半導体製造プロセスの開発が遅れているという理由もあるようだ。現在のXeon Scalable(Skylake世代)や第8世代Coreプロセッサでは14nmのプロセスを使用している。10nmの半導体製造プロセスが経済的合理性を含めて完成するのは、2018年~2019年になるだろう(利益を度外視して、少数のチップをリリースすることは現状でもできるようだが)。
この1~2年の遅れは、Xeon Phiにとっては致命的になる。2019年に第3世代のXeon Phiをリリースしても、その時点ではNVIDIAやAMDなどのGPUが先に進んでおり、パフォーマンス面でのデメリットが大きい。Xeon Phiは、GPUとは異なりx86プログラムが動かせるというメリットはあるが、AI向けの開発フレームワークがそろってきた状況において、「x86プログラムが動かせる」というメリットはAIの分野では少ないだろう。
そこでIntelには、Xeon PhiのコアをAtomベースからXeonベースに変更するという計画もあるようだ。このあたりは流動的であり、現実になるかは分からない。ただし、スーパーコンピュータやHPCの市場を考えれば、Intelは第2世代のXeon Phi以降の計画を明らかにしないと、影響力が低下していくことになる。