クラウドコンピューティング時代の購入サイクルでも、エンタープライズソフトウェアのときと同じことが起きるのだろうか。これは、企業は料金の割引を求めて自らロックインを選択し、あとになって影響力不足に苦しむことになるのか、ということだ。
このような以前と同じ疑問が、クラウドコンピューティングの調達においても再燃し始めている。ロックインの問題は、SaaSにも、IaaSにも、あらゆるものをサービスとして提供する「Everything as a Service」にも存在している。
クラウドでは、ほかのエンタープライズ技術とは状況が異なるという議論も以前からある。例えば、価格はコモディティ化し、競争によって限界まで引き下げられている。API経済によって、複数のベンダーから調達したアプリケーションやデータを、ベストオブブリード方式で統合することもこれまでになく容易になった。またAPIによって、理論的にはクラウドプロバイダーの変更も簡単になっている。一方で、企業は過去にロックインによって引き起こされた惨劇から学んでおり、マルチクラウドを指向するはずだという議論もある。
しかし、クラウドが成熟するにつれて、奇妙なことが起こりつつある。企業は単一のプロバイダーを利用する方向へ向かっている可能性があるのだ。もしかすると、ロックインを選択するのは人間の性なのかもしれない。マルチクラウドとロックインのどちらが主流になるかはまだ不明だが、いくつかの事例について考えてみよう。
- Amazon Web Services(AWS)は、Shutterflyが同社のクラウドを全面的に採用していると発表した。GoDaddyも同様で、Netflixや、その他数十の企業も同様の選択をした。
- Google Cloud Platformの技術部門の役員は、米ZDNetに対して、同社はAWSやMicrosoft Azureからシェアを奪うためにサービスの価格を攻撃的に設定しており、SpotifyやEtsyがGoogle Cloudに移行すると語った。
- IBM Cloudはマルチクラウド戦略を取っているが、それでもAmerican Airlinesが同社のクラウドを採用したと発表している。
- Microsoft Azureは顧客企業獲得を狙って、ハイブリッドクラウドアプローチのモバイル化を進めている。American Center for Mobilityは、Azureを独占的なデータおよびクラウドプロバイダーに選んだ。
- またOracleは、割引やバンドル、既存製品のインストールベースを生かして、SaaSの顧客をIaaSやPaaSにも呼び込んでいる。
一方、アプリケーションプロバイダーが提供するソリューションは新たな分野に広がっている。Salesforceは顧客対応を中心としたソリューションスイートであり、MuleSoftを買収することで、システムの統合も手掛けられるようになる。Workdayは企業運営に必要な人事と財務のソリューションを持っている。SAPもクラウドで複数の機能を展開している。