シェアリングエコノミーの衝撃

シェアリングエコノミーの衝撃(7):モノからコトへ、時代の転機を象徴

聞き手・文=松岡功 2018年11月14日 06時00分

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 「シェアリングエコノミーの衝撃」連載の第7回は、デジタルビジネス分野に精通する特定非営利活動法人「CeFIL」のデジタルビジネス・イノベーションセンターで首席研究員を務める小西一有氏に、シェアリングエコノミーについての見解を聞いた。

シェアリングエコノミーが今後の経済の主流に

--まず、シェアリングエコノミーについてどのように見ているか、お聞かせいただきたい。

特定非営利活動法人「CeFIL」デジタルビジネス・イノベーションセンター首席研究員の小西一有氏
特定非営利活動法人「CeFIL」デジタルビジネス・イノベーションセンター首席研究員の小西一有氏

 若い人が車を買わなくなったと言われる中で、自動車会社もいろいろと知恵を絞って対処しているようだが、例えばこの現象一つとっても、私は消費者の満足度が成熟してきているのではないかと感じている。

 その背景には、これまでモノを大量に生産・消費することで満足感を得てきた私たちの価値観が、若い人たちを中心に変わってきている動きがあると捉えている。

 では、どう変わってきているのか。それこそ、購入や所有することを意味する「モノ」ではなく、さまざまな利用体験を意味する「コト」に重きを置く形になってきたといえる。シェアリングエコノミーはこの変化を象徴する言葉だと考えている。時代の大きな転機といえるだろう。

--シェアリングエコノミーは経済全体に大きな影響を及ぼすと考えているか。

 私はシェアリングエコノミーが、今後の経済の主流になっていくと見ている。先ほどの車をめぐる話でいうと、若い人は車を買わなくなったが、いらなくなったわけではない。車に乗って自分たちの見たいところ、何かをしてみたいところへは自由に行きたい。そのニーズは変わらない。ただ、目的は見たいものを見る、したいことをする、であって、そこへ移動するための車は自分で「所有」しなくても「利用」すればいいと考える人が増えてきているということだ。

 今の話は車のレンタルであって、シェアリングエコノミーの範ちゅうではないとの見方もあるかもしれないが、それを言えば、シェアリングエコノミーの定義自体がまだ明確になっていないので、私なりの捉え方になる。私自身はシェアリングエコノミーがこうだというより、「所有から利用・共有へ」という価値観の変化が映し出した経済というふうに大きく捉えている。そこで問題になるのは、そうした変化に企業が対応できているのかどうかだ。とりわけモノをつくってきた製造業は今後、コトを意識した事業へと発想を転換しないと、生き残っていけなくなるだろう。

キーワードは「IoT」「キャッシュレス」「サブスクリプション」

--シェアリングエコノミーとITやデジタルなどのテクノロジとの関係については、どのように見ているか。

 シェアリングエコノミーを支えるテクノロジというか、テクノロジが実現するシェアリングエコノミーに欠かせない仕組みという観点で、3つのキーワードを挙げておきたい。

 1つ目は「IoT」だ。例えば、どんなシェアリングサービスでもIoTによって、利用者をはじめとしてサービスの動き全体を可視化できるようになった。これによってビジネスモデルが描けるようになり、安心や安全の度合いも高められるようになったと考えている。

 2つ目は「キャッシュレス」だ。これもある意味で1つ目のIoTと同じだが、キャッシュレスによってお金のやりとりや流れを完全に可視化することができるようになる。日本は現金(キャッシュ)のやりとりが根強いと言われるが、キャッシュのやりとりはそこで取り引きが終わってしまう。つまり、つながりが切れてしまうことを意味する。

 デジタル社会になれば、全てがつながることによってデータが活用され、それによってさまざまなサービス、さらには社会全体が動く仕組みになるので、その根幹となるお金のやりとりが可視化できないようでは、デジタルを生かした社会にはなり得ない。

 3つ目は「サブスクリプション(定額制)」だ。シェアリングエコノミーの発展には、サブスクリプションによる料金システムの定着が欠かせないと考えている。シェアリングサービスの料金システムというと、使った分だけの従量課金を思い浮かべがちだが、サービスを継続して利用してもらうためにはサブスクリプションのほうが柔軟性がある。

 例えば、飛行機のエンジンは当初、従量課金で使われていたが、そのうちエンジンメーカーがエンジンだけでなく、航空会社がてこずっていたエンジニアリングを幅広くサポートするようになり、それをサブスクリプションで請け負ったことで、需要が広がっていったという話がある。シェアリングサービスの料金システム、すなわちビジネスモデルは、おそらくこうしたサブスクリプションが主流になるだろう。

--最後に、シェアリングエコノミーの課題をどう見ているのか。

 一番の課題は、信用だ。サービスを利用する方も、される方も、それを仲介するところも、基本的に信用できる関係を作り上げないと、シェアリングは広がっていかない。とりわけ、個人間(CtoC)の取り引きでは、信用をどう担保するかが重要なポイントになる。その意味では、シェアリングサービスで適用が広がってきているレピュテーション(評価)の仕組みを大いに活用すべきだと考える。これもデジタルが支えることになる。そう考えていくと、シェアリングエコノミーはまさにデジタルが作り出すと言っていいだろう。


 小西氏は、現職の前はガートナー ジャパンで企業の最高情報責任者(CIO)に向けて幅広い知見や洞察を提供していた、まさしく敏腕アナリストとして活躍してきた人物である。筆者はその当時も幾度か取材させていただいたが、先頃、同氏の講演を拝聴する機会があり、デジタルビジネスへの知見や洞察の鋭さに感服し、今回、改めてシェアリングエコノミーのテーマでも取材させていただいた次第である。ますますの活躍を期待したいキーパーソンへのインタビューが、読者の皆さんの参考になれば幸いである。

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