展望2020年のIT企業

議論が始まるGAFA後の世界--After Internet時代に求められる価値観とは

田中克己 2019年06月18日 07時00分

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 「BIからAIの世界になり、組織やチームワークのあり方が変わる」――。グループウェアを展開するサイボウズの米国法人、kintoneの山田理社長が2019年5月中旬、米サンフランシスコの本社オフィスで、筆者らにこんな話をしてくれた。BIとはBusiness Intelligenceではなく「Before Internet」。AIはArtificial Intelligenceではなく「After Internet」のこと。インターネットの前と後では、価値観が大きく変わり、組織やチームワーク作りを変えていくのだろう。

権力から共感を得られる組織に

 インターネットがなかった約30年前を思い出すと、報告書は手書きだったし、電話は固定だった。組織は経営者に情報が集まるように階層化されていた。会議の内容の一部が役員から部長へ、部長から課長へ、課長から一般社員へと伝達されることに端的に現れている。その逆もあるが、大量の情報を所有、管理する経営者が権力を持って、意思決定していた時代といえる。

 ところが、固定電話から携帯電話・スマートフォンへ、手書きからワープロ・PCへと進化し、情報やデータを共有するようになる。しかも、情報は瞬時に世界を駆け巡り、誰もが簡単にアクセスし、手に入れられる。戦い方に変化をもたらした。「自分が集めた情報だけで戦う個人戦から、他人が持つ情報を組み合わせて戦うチーム戦になる」(山田氏)という。そのチーム戦に重要なのは権力ではなく共感になる。共感を広げるコミュニティーの存在も欠かせない。

 2016年に、「保育園落ちた日本死ね」というブログがその問題の大きさを世間に知らしめて、国の政策作りに影響を及ぼしたのは記憶に新しい。こうしたブログなどの発言や行動に「いいね!」と共感する人たちが増え、社会を大きく動かすわけだ。企業活動も「いいね!」と共感されることが指標の1つになる。時価総額を競って商品の売り上げを拡大させたり、コスト削減や生産性向上に力を注いだりすることに、多くの人が共感するだろうか。社会課題を解決することこそ「いいね!」となり、解決に向けて関係するルールを変えていくことにもなる。

 山田氏によると、AI時代の組織やチームワークは忠誠心から距離感になる。例えば、働く場所だ。いつどこでも仕事ができる時代に、働くためにオフィスへ通う必要はなくなるだろう。オフィスは働き場から集まる場になる。社員のキャリアも企業が考えるのではなく、個人自らデザインしてそれに沿って会社を選択し、スキルを磨いていく。

 それなのに、「日本の企業は塀を作り、人材を囲い込もうとしている」(山田氏)という。しかも、塀をどんどん高くし、辞めさせないようにする。退職者を裏切り者とののしる経営者や管理職は、塀を高くした結果、外の世界が見えなくなっていることを認識していない。ところが、外の世界から会社の姿が見られている。社員や取引先、顧客を含めた関係者が情報を発信し、誰もがその情報を容易に入手できるからだ。「当社はホワイト企業」と主張しても、その実態は明らかにされる。

 山田氏は「社員の個性を尊重し、何ができるのか、何ができるようになったのかなどを評価する」とし、「100人100通りの働き方」という個性の違いを前提に一人ひとりが望む働き方や報酬を実現させるサイボウズの人事制度を紹介する。もちろん、米国法人もそれを採り入れている。巨大IT企業との違いを鮮明にする狙いもある。

金を稼ぐことから感謝されることへ変わる評価

 AIの世界をヒントに、IT産業の次世代リーダーを考えてみよう。メインフレームからオープンシステム、クラウドサービスへと変遷する中で、市場のリーダーはGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)へ移り変わった。その背景には取り巻く環境変化だけではなく、会社分割という大きな問題があった。巨大化した企業が市場を独占することは、健全な発展を妨げたり、消費者が不利益を被ったりするからだ。IBMやMicrosoftもその問題に直面した。今、GAFAの分割を主張する声がどんどん高まっている。

 だが、過去の分割話とは少し異なる。GAFAの行動が共感を得られるのかだ。2019年5月に発刊された書籍『グーグルが消える日』(SBクリエイティブ)で、著者のGeorge Gilder氏は「Googleが支配した現在のインターネットの世界はまもなく崩壊する」と、AIの世界を予想する。崩壊する理由の1つは、セキュリティーにある。無料で個人情報を収集、分析、予測することによるプライバシー問題でもある。彼らの巨大データセンターが大量の電力を消費することにもある。人工知能活用の結果の不透明さ、不信感もあるだろう。

 AIの世界は集中から分散へのシフトにも思える。ところが、面白いのはGoogleやAppleなどが米シリコンバレーに巨大なオフィスを建設していることだ。無料で食事を提供するなど、巨大オフィスを1つの町に仕立てて、社員を一カ所に集めようとしているようにも思える。運動会や交流会などを企画する日本企業もそうだが、山田氏は「インターネットやスマートフォンの利用が当たり前のミレニアム世代が企業を変える」と、巨大IT企業からkintoneへ転職するITエンジニアらがいることを明かす。

 ミレニアム世代は、時価総額トップ10に入った巨大IT企業の成長を見てきた。数十億円の資産を持つ人も知っている。その一方で、イノベーションの拠点といわれるシリコンバレーの土地は上がり、家賃が高騰する。年収10万ドルでも貧困層になり、浮浪者になった人を目にするそうだ。「それでいいのか」との思いがミレニアム世代に芽生え始めて、NPOやボランティアの活動に参加するなど、仕事以外のことで社会に貢献する。「お金を稼ぐ競争ではなく、『ありがとう』と感謝されることを大事にする」とし、山田氏はそれをテクノロジーで実現することが求められているという。

 自社のことだけを考える企業起点から社会や消費者の悩みを解決する顧客起点へ変革することでもある。いまだに顧客起点を考えられない日本のIT企業は少なくない。ユーザー企業の旺盛なIT投資によって、これまで収益を確保し続けてきたが、IT化によってどんな効果があったのだろう。今、デジタル化で同じことを繰り返そうとしている。経営者が「デジタル化に早急に取り組め」と現場に指示すると、現場は目的が不明確なままデジタル化に着手する。依頼を受けたIT企業は無駄な投資と分かっていても、ユーザーに言われたまま開発に取り組む。失われたIT投資がこれからも続くのだろうか。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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