中国における自動運転のスタートアップ「RoadStar.ai」(星行科技)が、事実上解散した状態となっている。同社のウェブサイトに異常はないが、主要メンバーは既に同社から離れ、本社オフィスはもぬけの殻となっている。
RoadStar.aiで検索すると、華々しく紹介する日本語の記事が多数出てくる。またRoadStar.aiの2018年5月のプレスリリースには以下のように書かれている。
世界屈指のレベル4自動運転テクノロジーのパイオニアである同社は、シリーズAラウンドで1億2800万米ドルを調達し、自動運転テクノロジーキット「Aries」を発表した。2017年5月に中国・深センを本社に設立された同社には、Google、Tesla、Apple、NVIDIA、Baidu USAなどトップクラスの自動運転企業出身のエンジニアを含む極めて優れた人材が名を連ねている。2020年の野心的な目標は、自動運転車両へのドライバー介入率を走行1000km当たり1回にまで低減することである。RoadStar.aiは2018年、中国で新たな自動運転車両を50台導入する予定で、2019年には200台、2020年までに1500台に拡大する計画である。
以上がプレスリリースとなるが、結局同社の内紛劇が報じられるまでの間、新たな自動運転に関するニュースはなかった。
RoadStar.aiは、自動運転に力を入れる百度(Baidu)のトウ(にんべんに冬)顕喬氏と衡量氏と周光氏の3人のエンジニアが百度から独立し立ち上げた会社だ。
2019年1月21日に、周光氏が企業財務のルール違反、政府監督管理報告への捏造(ねつぞう)データ作成、同窓の知人への不適切な融資、日常的なパワーハラスメントなどが発覚したとして解雇を迫られた。周光氏は当時、東京モーターショーの準備を行っていた最中であった。
RoadStar.aiへの投資グループが企業の核心的利益を損なうと解雇にまったをかけたが、周光氏は解雇された。さらに現在、トウ顕喬は自身の微信のモーメンツ(朋友圈、Facebookでいうタイムラインのような機能)でRoadStar.aiから離れていることを発表。また衡量氏も同社から離れていると報じられている。シリーズAラウンドの調達側は資本を撤収したとしている。また、多数決ではなく少数が勝手に決める企業構成に最初から問題が有り、それが現在までの問題になっているとも報じられている。主要スタッフが離れ、深センのオフィスについてはスタッフ不在、資金も撤収という状況である。
RoadStar.aiが実質終わった会社となってしまったからといって、中国の企業風土はときにそういうものだとも一概には言えない。また中国の自動運転はすごくないと切り捨てるのも話が違う。例えば、百度は引き続き自動運転に注力しているし、他のスタートアップ企業にも「新石器」「文遠知行」(WeRide.ai)といった企業が、自動運転レベル4(特定の状況下での人の手を使わない運転)に取り組んでいる。中国の自動運転企業が気になる方は調べてみることをお勧めする。
ただ今回の件で日本を振り返って心配なのは、どこのメディアもこの報道をしていないということだ。中国の自動運転車が気になって検索すれば、RoadStar.ai社の名前が出てきて、同社がすごいという情報だけが多数出てくるが、その後同社が実質機能していないというのは全く出てこない。中国のすごいと評される企業はしばしばその後を報じる必要があるのではなかろうか。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。