本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、スイスIMDビジネススクールのMichael Wade教授と、日本マイクロソフトの佐藤知成 執行役員常務の発言を紹介する。
「ディスラプターではなく“ディスラプション”を見極めよ」
(スイスIMDビジネススクール Michael Wade 教授)
スイスIMDビジネススクールのMichael Wade教授
スイス・ローザンヌに本拠があるビジネススクールのIMDのMichael Wade(マイケル・ウェイド)教授が先頃来日し、シスコシステムズが開催した「デジタルイノベーションカンファレンス」で特別講演を行った。Wade氏の冒頭の発言はその講演でのメッセージの1つを取り上げたものである。
Wade氏はデジタルトランスフォーメーション(DX)分野の第一人者と目され、DXへの注目度の高まりとともに世界的に脚光を浴びているオピニオンリーダーの一人である。同氏の著書はDX分野の指南書として注目され、日本でも『DX実行戦略〜デジタルで稼ぐ組織をつくる』および『対デジタル・ディスラプター戦略〜既存企業の戦い方』の2冊(いずれも日本経済新聞出版社発行)が翻訳本として提供されている。
Michael Wade教授の著書
そんなWade氏は特別講演で、著書のエッセンスとして「企業におけるDXの取り組みでよくある7つの間違い」を取り上げた。以下がその7つである。
- デジタルのためのデジタル化に専心する
- ディスラプションではなく、ディスラプターに焦点を当てる
- 変革チームの建て付けを誤る
- 戦略と計画にフォーカスし、ビジョンとアジリティーを軽視する
- サイロ内での変革に終始する
- 文化の変革への注力不十分
- デジタル・ケイパビリティへの投資が過小
この中から、2つ目の間違いを、そうならないように言い換えたのが冒頭のメッセージである。その意図は、ディスラプター(創造的破壊者)に惑わされることなく、そのディスラプターが起こしているディスラプション(創造的破壊)の中身を注視すべきだと。つまり「見た目ではなく本質を見極めよ」と、Wade氏は説いている。
この7つの間違いの話とともに筆者が印象深かったのは、Wade氏がDXを「デジタルビジネス変革」とも呼び、「デジタルテクノロジーおよびデジタルビジネスモデルを使うことによる、業務改善のための組織変革」と説明していたことだ。
DXには「テクノロジー」「ビジネス」「マネジメント」の3要素があると考えたとき、Wade氏は意図的にマネジメントに焦点を当てているように、筆者には見て取れた。逆に言うと「マネジメントが忘れられがち」との警鐘ではないだろうか。
Wade氏の知名度はDXの浸透とともに、日本でもこれからグッと上がっていくだろう。ぜひ、名前を覚えておいていただきたい。