マネージャーを目指すエンジニアのためのビジネスナレッジ

「機能ありき」ではチームが疲弊する--PdM・エンジニアが経営視点を身につけるべき理由 - (page 2)

末永昌也 (グロービス)

2020-06-05 06:00

「経営者としての知識不足」を感じて通い始めた大学院

 筆者は地方の出身で、幼少期の世界観は狭いものだった。周囲の大人も一次産業、二次産業に従事する人が多く、それ以外の仕事に将来従事するのは想像もしていなかった。しかし、東京の大学に進学し、新しい文化や技術、学問に触れたことで、学びを通して新しい可能性を切り開ける感覚を得た。

 社会に出た後は、リーンスタートアップ形式のハッカソンの世界大会入賞をきっかけに起業した。現職のグロービスには、「グロービス学び放題」初のエンジニアとして入社し、ゼロから70人規模の組織を構築するまでに至った。学びによってキャリアが開かれたと感じている。自身の幼少期、周囲に起業するような人はいなかった。転機は19歳で父を亡くしたときだ。人生の儚(はかな)さを強く実感した。人生一度切りの中で、「漠然と生きるのではなく、人生を価値あるものにしたい」という思いはその時からずっと変わらず私を突き動かしている。

 そんな私が「学び」の中でもビジネスナレッジを身に付けたいと思ったのには、きっかけがある。

 前職のスタートアップではCTOを務めていた。技術面での知識や経験には自信があったが、事業企画や財務、ファイナンスなどの実践的なスキルは十分でなかった。資金調達に直面した際、ファイナンスをどうすべきか判断軸を持たず、CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)など、他のボードメンバーとの議論ができない場面もあった。書籍で学んだ知識と実践の知識もかけ離れていると感じ、「経営レベルのビジネスナレッジをつける必要がある」という気持ちが強まっていった。そこでグロービスに転職後、ファイナンスを中心とした経営全般の知識を学ぶために大学院に入り、戦略の考え方やマネジメントなど、経営領域の幅広い知識を学んだ。環境から逆算して戦略を立て、プロダクトや組織の方向性を導く考え方を身につけることができたと感じている。

 開発現場では、「競合サービスが〇〇という機能を開発しているので、似た機能を導入しよう」といった意見が出ることも多い。しかし、機能面しか意識せずに意思決定を積み重ねていると、サービスがコモディティー化し次第にコスト競争に陥り、結果的にチームも疲弊してしまう。エンジニアやPdMも、ある程度経営戦略の知識をつけ、外部環境や業界状況を分析・理解できるようになる方が、よりよい意思決定ができる。

 私自身、大学院で学んだビジネスの知識は、エンジニア組織を作る上でも、プロダクトの方向性を導く上でも役立っている。例えば、業務で役立っているのが「プロダクトライフサイクル」というビジネスフレームワークだ。プロダクトの導入から衰退までの推移や、市場や競合の特徴を把握するためのフレームワークである。

 一般的にプロダクトは 、「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」 という4つのステージを経る。

「プロダクトライフサイクル」における、製品ライフステージごとの特徴(出典:「グロービス学び放題」製品ライフサイクル)
「プロダクトライフサイクル」における、製品ライフステージごとの特徴(出典:「グロービス学び放題」製品ライフサイクル

 それぞれのステージにおいて、競合状況や顧客層も変わるため、プロダクト開発においても何を重要視するかはステージごとに全く違う。

 例えば、新サービスを市場に出した直後は、新しいものが好きな顧客層にアプローチしている状態だと想定される。その時に必要な顧客に対する問いは「サービスの不満は何か?」ではなく、「なぜサービスを使うのか?」というコアな1点にフォーカスを置くべきだ。iPhoneも初期は使いにくい部分も多かったが、コアなファンに圧倒的に支持された。ステージとして市場に受け入れられてから、プロダクトの不満に対してはアプローチをしていく必要がある。ステージの理解は議論の前提として重要である。

「プロダクトライフサイクル」における、顧客タイプの変遷(出典:「グロービス学び放題」出典:「グロービス学び放題」製品ライフサイクル)
「プロダクトライフサイクル」における、顧客タイプの変遷(出典:「グロービス学び放題」製品ライフサイクル

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