2015年から経済産業省が東京証券取引所と共同で選定していた「攻めのIT経営銘柄」は「DX銘柄」と名称を変え、2020年8月に「DX銘柄2020」が発表されました。今回は、DX銘柄の概要を解説し、DX銘柄2020においてDXグランプリに選定された2社の事例を紹介します。
DX銘柄への移行とその概要
経済産業省が東京証券取引所と共同で、2015年から選定してきた「攻めのIT経営銘柄」は、2020年から新たな評価フレームワークに基づく「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」へと移行しました。経済産業省では、2020年1月から「Society5.0時代におけるデジタル・ガバナンス検討会」にて、経営者に求められる企業価値向上に向け実践すべき事柄について検討しています。
こうした動きと連動する形で、本年においては、過去5回実施してきた「攻めのIT経営銘柄」をDXに焦点を当てる形で「DX銘柄」という名称に改め、選定項目の見直しを行いました。
東京証券取引所に上場している企業の中から、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を選定することで、目標となる企業モデルを広く波及させるとともに、IT活用の重要性に関する経営者の意識変革を促すことを狙った施策といえます。
また、投資家を含むステークホルダーへの紹介を通して評価を受ける枠組みを創設し、企業によるDXの更なる促進を図ることを目的としています。
DX銘柄2020の発表内容
DX銘柄2020は、東京証券取引所(一部、二部、ジャスダック、マザーズ)の上場会社、約3700社を対象に「デジタルトランスフォーメーション調査2020」を実施し、過去最多の535社がエントリーしました。2017年5月に経済産業省が公表した「価値協創ガイダンス」と連動したフレームワークに基づき、「I.ビジョン・ビジネスモデル」「II.戦略」「II-1.組織・制度等」「II-2.デジタル技術の活用・情報システム」「III.成果と重要な成果指標の共有」「IV.ガバナンス」の6つの項目と財務指標についてスコアリングした後に、評価委員会の最終選考を経て、最終的に35社のDX銘柄が選定されました(図1)。
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これに加えて、DXの裾野を広げていく観点で、DX銘柄に選定されていない企業の中から、総合的評価が高かった企業や注目されるべき取り組みを実施している企業について、DX銘柄評価委員会の審査により「DX注目企業2020」として21社を選定しています。
また、企業のDXに向けた取り組みを強く推進するため、銘柄選定企業の中からデジタル時代を先導する企業として「DXグランプリ2020」を選定。小松製作所(コマツ)、トラスコ中山の2社が受賞しました。ここからは、DXグランプリを受賞した2社の取り組みを紹介しましょう。
製造業からの転換を図る小松製作所
DXの先駆者として著名な建設機械製造大手のコマツには、DXの概念もIoTという言葉も存在していなかった1990年代から情報通信技術(ICT)を活用してビジネス変革を推進してきた長い歴史があります。
まず、同社にとってデジタルビジネスの先鞭(せんべん)をつける役割を果たしたのが、2001年から他社に先駆けて標準装備した「KOMTRAX」です。これは、車両内ネットワークから集められた情報やGPS(全地球測位システム)により取得された位置情報を利用者や販売代理店に無償提供することで顧客満足度を向上させ、本業における競争優位性を獲得した取り組みです。
この取り組みにより、自社製品の顧客や販売パートナーに有益な情報を提供し、共存共栄が図られ、同社の製品に対するロイヤリティーが高まったといえます。ただし、その範囲は従来の取引関係内に限定されており、建設機器の製造販売という本業の競争優位性を高めるにとどまっていました。
これに対して、コマツが次の一手として2015年2月に開始したのが「スマートコンストラクション」という次世代型の建設現場向けICTソリューションの提供です。これは、KOMTRAXが実現した建設機械の可視化を超えて、施工工程全体の可視化を実現したものです。
スマートコンストラクションの中核を成すのが、「スマートコンストラクションクラウド」というサービスであり、同社の主要な顧客である建設・土木会社の工事受注から、設計、施工、アフターサービスにいたる全工程のプロセスを支援し、情報を一元的に管理するプラットフォームとなるものです。ステレオカメラを建機に搭載するなどして、他社の建機や手作業の結果もデータ化して一元管理することもできます。
コマツはスマートコンストラクションによって建設機械を製造販売するという製造業のビジネスモデルから、顧客の問題を解決するプラットフォームとそれに付帯するサービスを提供するサービス業へと転換を図っています。また、顧客の労働力不足や安全性の向上などの課題を解決し、業務プロセスに深く入り込むことで建設・土木会社への影響力を強めています。
同社は、今では建設現場のあらゆる情報をICTでつなぎ、安全で生産性の高い現場を実現するとともに、蓄積されたデータを社会インフラの整備や災害復旧にも役立てようとしています。